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日本言語学会学会賞

日本言語学会では,学会の研究活動の一層の向上・充実を目的とし,若手会員に主眼を置いて,優れた研究を顕彰するために,論文賞大会発表賞の2つの賞を創設いたしました。優れた研究論文や研究発表がますます活発に投稿・応募されることを期待しております。

○日本言語学会論文賞 (2011年度より実施)

過去2年度(4号分)の『言語研究』に掲載された「論文」の中から,特に優れた論文に対して授与されます(賞状および副賞賞金)。(毎年1件。最大2件)(「日本言語学会論文賞」規程)

2016年度の論文賞(2件)

大竹昌巳氏(京都大学大学院/日本学術振興会特別研究員)
「契丹小字文献における母音の長さの書き分け」『言語研究』148号(2015年9月)[本文PDF]

 すでに死滅した言語である契丹語の文字を介して、母音の長短の対立について検討した論文である。現代モンゴル語、中期モンゴル語、モンゴル文語、モンゴル祖語、さらに近隣語族言語と比較しながら、接尾辞等の異形態、同源語、綴字交替、同語異綴などを検討し、二次的長母音の存在と一次的長母音の残存を明らかにした。論証過程は興味深く、当該研究分野の深化と活性化に寄与する論文である。
矢野雅貴氏(九州大学大学院/日本学術振興会特別研究員)
"The Interaction of Morphosyntactic and Semantic Processing in Japanese Sentence Comprehension: Evidence from Event-Related Brain Potentials" (共著者:坂本勉氏)『言語研究』149号(2016年3月)[本文PDF]

 事象関連電位(脳波)を指標として、形態統語処理と意味処理の相互作用を検討した研究である。実験の結果、格違反文と意味役割を逆転した文において左前頭部陰性波とP600が観察された。このことで、統語と意味の処理が刺激呈示後400ミリ秒で相互に作用していることを示唆した。言語をめぐる本質的な問題の解明を目指しており、当該の研究分野に大きく貢献する実証的研究である。

授賞式(第153回大会,12/4,福岡大学)

2016年度論文賞

2015年度の論文賞(1件)

早田清冷氏(日本学術振興会特別研究員/京都大学)
「古典満洲語の「同格の属格」について」『言語研究』147号(2015年3月)[本文PDF]

本論文は古典満洲語におけるいわゆる「同格の属格」とされる構文について新しい分析を提示したものである。古典満洲語では「NP1+i+NP2」という二つの名詞句を属格iでつなぐ構造に「min-i sakda niyalma「老人の私(lit. 私の老人)」のような「NP1であり、かつNP2である対象」を表す用法がある。この用法は従来「同格の属格」と呼ばれてきた。この用法は同格とされるが、実際には日本語の「老人の私」が、NP1がNP2の連体修飾要素となっているのに対し、古典満洲語では「私の老人」というという語順になっている。これに対応する「同格の属格」は他のツングース語にはない。
 早田氏は、この構造の本質を見るためにまず、満文三国志のテキストテータベースを用いてコピュラbiの分布を網羅的に分析し、古典満州語に音形のないコピュラが存在することを示した。また、この言語では、連体修飾節の主語は属格で表すこともできることが知られている。このことから、早田氏は、いわゆる「同格の属格」の構造は「属格主語+名詞句+ゼロコピュラ」という連体修飾節構造をなし、かつそれらが主部内在型関係節を表すと結論する。
 本論文は古典満洲語で謎とされてきた構造に対して、データの網羅的な観察と、非常に説得力のある議論で明快な解答を与え、古典満洲語の理解を大きく進めている。言語学のみならず歴史学などのテキストの精密な解釈を必要とする分野に対しての貢献も認められる。以上をもって、論文賞に値すると結論した。

授賞式(第151回大会,11/29,名古屋大学)

2015年論文賞

2014年度の論文賞(2件)

青井隼人氏(東京外国語大学大学院/日本学術振興会特別研究員)
「宮古多良間方言における「中舌母音」の音声的解釈」『言語研究』142号(2012年9月)[本文PDF]

 宮古方言には慣習的に「中舌母音」と呼ばれる母音が広く観察され、この母音が聴覚的中舌性の他、摩擦母音性と調音的舌先性という通言語的に珍しい音声的特徴を持つことは以前から指摘されていたが、その音声的実態は未解明であった。本論文は宮古方言の下位方言の一つである多良間方言を取り上げ、この方言における「中舌母音」が舌端と歯茎および奥舌面と軟口蓋という、2重の狭めを持っており、中舌母音とは言えないという興味深い分析をおこない、これまで専ら舌先母音か中舌母音かが争点となっていた宮古方言の「中舌母音」論に新たな展開をもたらしたものである。これは言語類型論的にも高く評価できる。
 また、音響分析・静的パラトグラフィーという2種類の器械音声学的手法を駆使し、具体的な根拠に基づく推論を平明な文章で展開した本論文は、話者数が限られている方言の音声学的研究としては最善を尽くしたものと言え、他の方言研究者にとっても大いに参考になるものと言える。
 先行研究を批判する論の中には、若干の性急さを感じさせる箇所もあるとはいえ、それは今後追求すべきテーマを示唆するものであり、MRI分析の検討も含めてさらなる発展が期待される。
 以上、本論文は通言語的に稀少な方言音声を取り上げ、器械音声学的手法を駆使してその調音の実態に迫った優れた論文であり、日本言語学会論文賞にふさわしいと判断される。
澤田淳氏(青山学院大学)
「日本語の授与動詞構文の構文パターンの類型化―他言語との比較対照と合わせて―」『言語研究』145号(2014年3月)[本文PDF]

 本論文は、日本語の授与構文における述語動詞の用法を本動詞的用法と4つの補助動詞的用法に分けるという形で授与構文の文法化の程度差をとらえる枠組みを提案し、この枠組みの有効性を韓国語・中国語・マラーティー語というアジアの3言語の代表的な授与構文との対照を通じて主張したものである。日本語の授与構文が他言語と比べてより文法化していることは従来から知られていたが、本論文のきめ細かな枠組みは、言語間の違いだけでなく、「くれる」構文が「やる」構文よりも文法化しているといった個々の構文間の違いも含めて、より精密なレベルでとらえることを可能にするものと言える。本論文ではさらに、「或る言語に或る授与構文があるなら、当該の授与構文よりも文法化していない授与構文もその言語にある」という形で、授与構文の文法化の階層が含意の法則に読み込み可能という興味深い仮説も提案されており、授与構文の類型論的研究に重要な貢献をなすものとして高く評価できる。
 対象言語の選定や記述に多少の問題は残るとはいえ、日本語の授与構文の分析を類型論的分析にまで展開した視野の広い論考であることは確かであり、今後のさらなる発展が期待される。
 以上、本論文は日本語の授与構文観察を出発点として、4言語の対照を展開し、授与構文の通言語的な枠組みと含意の法則仮説を提案するに至った労作であり、日本言語学会論文賞にふさわしいと判断される。

授賞式(第149回大会,11/21,愛媛大学)

2014年論文賞

2013年度の論文賞(1件)

・林下淳一氏
「On the Nature of Inverse Scope Readings」『言語研究』143号(2013年3月)[本文PDF]

 Someone loves everyoneに代表される英語例文において、someがeveryよりも広いスコープを取る解釈はごく自然に得られるが、逆に、everyがsomeよりも広いスコープを取る解釈(著者のいうinverse scope reading「逆スコープ読み」)は様々な揺れを示すことが知られている。従来の統辞論研究では、これら両種のスコープに付随する解釈を同等のものとして扱い、それに基づいて様々な統辞論的仮説を検討することが常であった。著者はこのような従来のアプローチに異を唱え、表層の形式を直接反映するスコープ解釈は純粋な統辞論的現象だが、逆スコープの解釈は狭い意味での統辞法(文レベルの計算システム)のみで生じるのではなく、談話レベルの要因が関与する複合的現象であると主張した。この主張を支持するために観察された日本語の現象も興味深く、随所で英語の例文についても同じ説明が可能であることが示されており、その意味で普遍性の高い主張になっている。この論文で用いた道具立ては、目的語位置に生起する数量詞の逆スコープの読みの分析にその適用範囲が現時点では限定されており、あらゆる位置に生起する数量詞に適用される道具立てとして機能するには至っていないものの、これまでの統辞論的仮説の再考を迫るもので、経験的にも理論的にも重要な主張がなされているといえる。著者はさらにdiscourse-level syntax(談話レベルの統辞論)という新しいモデルを提案している。このモデルは様々の理論的問題を含むが、文法理論に関わる思い切った提案として、今後の深化が期待される。
 以上、本論文は理論的に極めて重要な指摘を興味深い経験的データに基づいて行なった優れた論文であり、日本言語学会論文賞に相応しいと判断される。

授賞式(第147回大会,11/24,神戸市外国語大学)

2013年論文賞

2012年度の論文賞(1件)

・今野弘章氏
「イ落ち:形と意味のインターフェイスの観点から」『言語研究』141号(2012年3月)[本文PDF]

「イ落ち構文」(「寒っ」vs.「寒い」)という、一見周辺的で特殊な現象を、統語論、意味論、語用論の側面から丁寧に記述し、それを言語体系の中に位置づけることに成功している。日常的によく見られる「イ落ち現象」について、意味・統語どちらかに偏った分析ではなく、両方を含みかつ語用論的な点についても分析を行うなど、ひとつの言語現象について多面的にバランスよく考察を加えている点が高く評価できる。さまざまな非文例(「寒っ」vs.「*寒くなっ」)を挙げながら、その特徴をつまびらかにしていく論証は、言語学的分析の面白さを読者に強く感じさせるものである。
 反例に対する処理の仕方(否定表現を含むように見えるイ落ち文は語彙化されている、主格表示を含むように見えるイ落ち文は形容詞の部分のみが引用成分である、など)は、必ずしも十分に証拠が示されているとは言えず、議論がやや性急に進められている感はあるものの、想定されうる反論に対しては説得力をもって議論し、自説の妥当性を効果的に主張している。
 この論文は、まず分析対象とする構文の統語的特性と意味的特性をそれぞれ独立に考察し、その結果をもとに「イ落ち現象」を説明するという、非常に明快な論理と構造をもっており、堅実な分析と主張がなされていて、説得力のある論文であり、極めて高く評価できる。当該あるいは関連分野の研究において、この論文は広く引用され、今後の研究に大きな影響を与えるものと思われる。よって、この論文は日本言語学会論文賞に相応しいと判断される。

授賞式(第145回大会,11/25,九州大学)



2011年度の論文賞(2件)

・内藤真帆氏(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科研究員)
「ツツバ語の移動動詞と空間分割」『言語研究』136号[本文PDF]

 本論文は,徹底した現地調査に基づく記述研究である。意味論の先端的な課題にも取り組んでおり,論旨も明快でわかりやすく,高く評価すべき論考である。
 ツツバ語はオーストロネシア祖語から派生したオセアニア祖語に由来し,ヴァヌアツ共和国のツツバ島において約500人の話者によって話されている言語である。この言語についてのこれまでの記述は十分でなく,現地調査で得られた資料自体がすでに貴重な価値を有している。本論文では,ツツバ語における3種類の移動動詞がさまざまな地理的条件によってどのように使い分けられているかという問題を,参与観察などを通して丁寧に分析している。これによってツツバ語話者が,どのように空間をとらえているかということを明らかにすることに成功している。
 ツツバ語における物理的・心理的,さらには歴史的な面から説明される当該言語現象の分析は,オーストロネシア語族一般においてこれまでいくつかの論考に取り上げられてきた分析をさらに深化させたものである。言語と空間認識の関係は認知意味論,および言語人類学においても多くの関心を集めている問題であり,このような分野においても本論文は大きな意義を有する。特に移動動詞の使用を,歴史的文脈をふまえつつ実証的に分析した点は高く評価できる。
 難をいえば,ツツバ語の記述に留まらず,視点や空間の認知に関する先行研究をふまえて,より一般的な考察がなされていれば,さらによい成果となったのではないかと考えられる。結果の提示の仕方などにも若干荒削りな面はあるが,本論文は全体としてフィールドワークに基づく重要な成果であり,後続の研究者の模範ともなる優れた研究である。
・中川聡氏(豊田工業高等専門学校)
"Synchronic and Diachronic Aspects of Nominative and Accusative Absolutes in English" 『言語研究』139号[本文PDF]

本論文は,英語分詞構文の主語の格標示の歴史的な変遷について,コーパスから得られた例とその頻度を考察し,先行研究を十分に押さえた上で,チョムスキーが“On Phases”(2008)において提示した格理論に基づく説明を与える意欲的な研究である。本論文は,コーパスを駆使し,理論的考察を加えることによって,英語の歴史的変遷についても新たな知見を得ることができること,また,歴史的データのコーパス分析により理論の発展に貢献することができることを示しており,高い学術的価値を有する。
 この論文の特徴として,まず,綿密なコーパス調査を行うことで当該現象の歴史的変化に関する新たな事実を提示していることが挙げられる。これは,統計的事実に留まらず,初期英語におけるAux-to-COM移動(助動詞前置)を示すデータを含むものである。さらに,主格独立分詞構文が,後期近代英語では衰退していく過程を,C-T構造の喪失(具体的には補文標識とその投射の喪失)に関連づける仮説は独創的であり,高く評価できる。この歴史的変化の説明は,主格とCOMP(補文標識)を関連づけるチョムスキーの格理論を支持するものであり,統語理論の観点からも意義深い。
 本研究には,若干の問題点も見られ,分詞構文と動名詞構文の区別があいまいであること,独立分詞構文の対格主語についてより詳細な分析が望まれることなどがあげられるが,いずれも今後追求すべき研究テーマを示唆するものであり,今後のさらなる発展が期待される。

授賞式(第143回大会,11/27,大阪大学)



○日本言語学会大会発表賞 (2011年秋季大会(第143回大会)より実施)

大会における優れた口頭発表・ポスター発表に対して授与されます(賞状および副賞賞金)。(毎回数件)(「日本言語学会大会発表賞」規程)

第152回大会(2016年春季,慶應義塾大学)の大会発表賞(3件)

・柴田香奈子氏
「修道院手話「手まね」の疑問表現」

本発表は、日本、ドイツ、オランダの厳律シトー修道院で収集したデータに基づいて修道院手話(「手まね」)の疑問表現について分析し、Wh 疑問詞にあたる非手指指標の存在や、Yes/No疑問文における質問マーカーの文法化などを明らかにしたものである。動画データを用いた発表は効果的で、質疑応答も適切であった。
・峰見一輝氏(共同発表者:津村早紀氏,矢野雅貴氏)
「日本人学習者による英語filler-gap 依存関係の処理 ―自己ペース読文実験による検討―」

本発表は、日本人英語学習者が英語のfiller-gap 依存関係を処理する際に、Active Gap Fillingは行っているが、Hyper-Active Gap Filling は行っていない可能性を、自己ペース読文実験を用いて示したものである。質疑応答でも質問者の意図を汲み取ったうえで適切に対応していた。
・松倉昂平氏
「複合名詞アクセントに見る福井県あわら市北潟方言と高知市方言の対応関係」

本発表は、発表者自身が発見した三型アクセントの北潟方言において、複合名詞アクセントが特異な分布状況をみせる問題について解明を試みたものである。古い形を保存する中央式の高知市方言と比較し、両方言の対応関係を論じた。アクセント研究に新しい知見をもたらす内容で、発表の仕方も明解で丁寧であった。


授賞式(第153回大会,12/4,福岡大学)

2016春発表賞

第151回大会(2015年秋季,名古屋大学)の大会発表賞(1件)

・窪田悠介氏
「言語理論研究における「ツール」としての範疇文法」

本発表は,理論言語学において主流である移動に基づく分析が,発表者が構築している「ハイブリッド範疇文法」によって計算機で解析可能な形に書き換えられることを示し,この理論が言語研究の有効なツールとなることを主張したものである。理論言語学と計算言語学をつなぐ意欲的な試みであり,発表のしかた,質疑応答も適切であった。

第150回大会(2015年春季,大東文化大学)の大会発表賞(2件)

・平田未季氏
「共同注意の確立過程における聞き手の負荷と話し手による指示詞の質的素性の選択」

本発表は,ガイドが町の歴史的事物の案内をする自然談話をデータとして,聞き手の注意を指示対象に誘導していくために質的素性の異なる複数の指示形式が使い分けられていることを明らかにしたものである。指示詞研究に新たな展開をもたらす研究であり,予稿集をふまえたスライドの使用も効果的であった。
・三村竜之氏
「アイスランド語における無声歯茎ふるえ音の解釈について」

本発表は,アイスランド語の無声ふるえ音について,従来考慮されていなかった複合語や文(句)におけるふるまいを精査し,有声の歯茎ふるえ音に加え,無声の歯茎ふるえ音も音素とする解釈を示したものである。主張は説得的であり,予稿集における内容提示と当日のプレゼンテーションも適切であった。


授賞式(第151回大会,11/29,名古屋大学))

2015年春発表賞

第149回大会(2014年秋季、愛媛大学)の発表賞(1件)

・曽根雅輝氏(共同発表者:広瀬友紀氏)
「名詞複合語連濁生起における、アクセント変化および同一モーラ連続の影響:発話実験による検討」

本研究は、複合語の後部要素におけるOCP (Obligatory Contour Principle) に関わる要因(同一モーラ繰り返しの有無)と、アクセント型(頭高 vs.平板型)の両変数が、連濁の生起に影響を及ぼすことを示した。仮説・予測・実験・結果・解釈という流れが非常に明確に示されており、実験の独創性があった。発表のしかたも整然としており、質疑応答もポイントを押さえたものであった。


授賞式(第150回大会,6/21,大東文化大学)

2014秋発表賞

第148回大会(2014年春季,法政大学)の発表賞(2件)

・白田理人氏
「奄美喜界島小野津方言の一人称代名詞の複数形」

奄美喜界島小野津方言には、一人称複数代名詞に除外形と包括形に加えて、先行文脈または発話場面の登場人物を含む集団を示す形式があるが、このうち、特に除外形ariwaakjaの文脈依存に関して新しい知見が得られたことの報告である。調査は周到に準備され、その結果に基づく手堅い内容の発表であった。代名詞のシステムを考える上で類型論的に価値のある研究である。発表の仕方や質疑応答も好評であった。
・髙橋康徳氏
「上海語変調におけるピッチ下降の音韻特性:実験音韻論的考察」

実証性・理論性・方法論をバランス良く議論しており、方法論的には実験音韻論的手法の有効性を示す好例になっている。「なぜ語頭から3音節目以降で音調下降があるのか」という問いに対して、原因がバウンダリー低音調によるとの主張には説得力があり、今後の研究の発展可能性と新しい意義を秘めた内容であった。発表時の時間配分も適正であり、質疑応答時の対応も真摯であった。


授賞式(第149回大会,11/21,愛媛大学)

2014春発表賞

第147回大会(2013年秋季,神戸市外国語大学)の発表賞(3件)

・カフラマン バルシュ氏(共同発表者:オズベッキ アイドゥン氏)
「トルコ語における再帰代名詞の解釈に関する一考察」

トルコ語における2種類の再帰代名詞の解釈について、実験的な観点から考察した意欲的な研究である。従来の内省に頼る研究では未解決であった問題に対して、新たな視点を提示した。発表は明快で、質疑応答も適切であった。研究への真摯な取り組み姿勢が、今後の発展の可能性を感じさせた。
・小林由紀氏(共同発表者:杉岡洋子氏、伊藤たかね氏)
「規則適用としての連濁:事象関連電位計測実験の結果から」

日本語の連濁現象に見られる諸条件を事象関連電位(ERP)計測という実験手法で分析し、連濁が類推ではなく規則によるものであることを主張した。問題の設定や着眼点のユニークさに加え、実験デザインも緻密であり、発表もわかりやすかった。今後の発展が大いに期待される研究である。
・松井真雪氏
「対立が"不完全に"中和した語の音声知覚:ロシア語の語末無声化の事例」

ロシア語の不完全中和の問題を、独自の知覚実験をもとに検討した。語末摩擦音の有声性が母語話者によって聞き分けられている一方で、摩擦音と破裂音の間に相違が見られることを指摘した。実験方法は堅実で、発表もわかりやすかった。今後は 通言語的観点を加えることで、さらなる進展が期待される。


授賞式(第148回大会,6/8,法政大学)

2013年秋発表賞

第146回大会(2013年春季,茨城大学)の発表賞(4件)

・梅谷博之氏
「モンゴル語におけるpreverbと動詞との間の結合度」

モンゴル語研究においてこれまでほとんど扱われることのなかった問題に着目し、その現象のみの解釈に終始することなく、モンゴル語文法全体の中で捉えようとする意欲的な研究である。論旨も明快で発表の仕方も優れていた。
・倉部慶太氏
「ジンポー語における成節鼻音の声調について」

ジンポー語に観察される成節鼻音の声調を音韻論的視点から分析しようとする研究で、音声的に出現する三種類の声調が音韻的には二種類の声調素に還元できることを示した。論旨は明快であり、質疑に対する応答も的確であった。
・野村純也氏
「Licensing Null Associative Plurals in Kaqchikel」

カケチケル語の項の複数読みの可能性が動詞の複数素性との構造的な一致によることを、統語理論の発展にもつながる形でわかりやすく提示した。記述と理論のバランスがとれており、質疑応答も適切であった。
・安永大地氏・矢野雅貴氏・小泉政利氏・八杉佳穗氏
「カクチケル語の基本語順と選好語順の関係について」

語順の自由度が高いカクチケル語について、SVOではなくVOSが基本語順であることを 脳波計測によるERPを指標として検証した。研究課題と結論、論証方法のいずれも明確で分かりやすく、発表の仕方も優れていた。


授賞式(第147回大会,11/24,神戸市外国語大学)

2013年発表賞

第145回大会(2012年秋季,九州大学)の発表賞(4件)

・江畑冬生氏
「サハ語(ヤクート語)の勧誘形における「双数」の解釈」

サハ語に特徴的な文法範疇である双数を「聞き手の数」の観点から記述しようとした試みで、「主語の数」の観点からでは説明できなかった事実を説明できることを示した。発表の仕方も優れていた。
・長屋尚典氏
「タガログ語の相互構文」

意味的に重なり合うところもある語彙的相互構文と統語的相互構文の文法的・意味的違いを明らかにしようとした試みで、両者に課される意味的制約の違いを図像性(iconicity)と関連させて説明しようとした点が評価できる。発表の仕方も優れていた。
・橋本大樹氏
「単純語を基体として持つ短縮語形成と韻律構造」

単純語を基体として形成される短縮語をコロンという韻律単位を想定することで説明しようとした試みで、テーマの選択、仮説の提示と検証、先行研究との相対的位置づけ、議論の展開、発表の仕方のいずれにおいても優れている。
・山田敏幸氏
「日本語の多重主語構文に対するカートグラフィーの観点からの分析」

フォーカス句の下の階層にトピックの階層があるとするRizziの考えに異を唱え、じつはそれがフォーカス句であることを、日本語の「は」や「が」が多重に生じる事実を使って論じる試みである。今後のカートグラフィー研究に重要な一石を投じる研究である。発表の仕方も優れていた。


授賞式(第146回大会,6/16,茨城大学)

2012年秋季学会発表賞

第144回大会(2012年春季,東京外国語大学)の発表賞(4件)

・儀利古幹雄氏
「町名のアクセント:アクセントの平板化と言語内的要因」

日本語の「町」を含む複合名詞のアクセントが、前部要素のモーラ長や音節構造によって決定されることを明らかにした研究である。周到に準備された調査を行うことで主張を計量的に裏付けた点、パワーポイント・発表の仕方・質疑応答がいずれも的確で聴衆の理解を大いに助けていた点が得に優れており、賞にふさわしい発表である。
・青井隼人氏
「宮古における「中舌母音」の音韻解釈」

宮古方言の「中舌母音」の音韻的解釈について、先行研究を批判しながら理論・歴史・通言語的観点から考察した研究である。「中舌母音」が音韻的には非円唇奥舌挟母音として解釈できるという主張にはオリジナリティがある上、発表も適切な時間配分のもとで聞き手の理解を助ける工夫をした優れたものであった。
・大滝靖司氏
「父称Mac-/Mc-で始まる姓の借用語における促音化:つづり字と音節構造」

借用語における促音化という難しい問題に対し独創的な視点から調査を行うことにより、原語の重子音つづり字が生起要因として大きな役割を果たしていることを明らかにした研究である。予稿集の内容・形式、発表それ自体もよくまとまっており、発表の仕方や質疑応答も優れていた。

・木山幸子氏・玉岡賀津雄氏・リヌス フェアドンスコット氏
「終助詞の感受性に関する個人差:対人調整能力と性別の影響」

終助詞「よ/ね」の適切性判断の聴覚提示実験を行い、これに「自閉症スペクトラム指数」で想定した対人調整能力と性差が影響するかを検討した研究である。終助詞の感受性は女性のほうが強いこと、および日常生活で注意の切り替えがスムーズにできる能力と関わることが示唆されるとした。練り上げられた実験計画に基づく研究であり、発表の仕方も優れていた。


授賞式(第145回大会,11/25,九州大学)



第143回大会(2011年秋季,大阪大学)の発表賞(2件)

・大滝宏一氏・杉崎鉱司氏・遊佐典昭氏・小泉政利氏
「カクチケル語における項削除の可否について」

本発表は、項削除の可否を説明する分析として、自由語順ではなく、一致に基づく分析の方が望ましいということを、カクチケル語の観点から論じたものである。先行研究では取り上げられていないカクチケル語の観察に基づき、新たな視点から項削除の分析について論じている点で独創的であり、明快な議論に基づき結論を導いている点でも優れた発表である。


授賞式(第144回大会,6/17,東京外国語大学)



・前田雅子氏
「日本語における非顕在的wh/focus移動とRelativized Minimality」

本発表は、日本語において焦点要素と疑問詞が共起する場合に見られる制約について、派生に適用される相対的最小性(Relativized Minimality)の原理に基づく新たな分析を提案し、その帰結を探るものである。上記の制約を統語構造と派生の観点から説明しようとする点で独創的であり、複雑な現象に統一的な理論的説明を与えようとする意欲的な優れた発表である。


授賞式(第144回大会,6/17,東京外国語大学)



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