Multiple Transferによる多重属格構文の分析

藤田元

本発表はMultiple Transfer理論に基づく新しい多重属格構文の分析を提示する。多重属格構文は名詞句内部に複数の属格名詞が現れる現象である。この構文においては最も主要部に近い属格名詞を除き、主要部と主題関係が無いことを指摘する。さらにこの関係は多重主格構文にも観察され、Chomsky(2000)、Collins(2002)などの主題関係・選択特性が外的併合の引き金になるという主張の反例であると指摘する。そのうえでNarita(2009)、Fukui(2009)が主張する語彙項目・非語彙項目の間に併合が適用されるという考えに従えば、属格名詞に連続的にTransferを適用することで、この問題は生ずることなく、多重属格構文を派生できると主張する。またこの連続的なTransferには音声部門における格付与が重要な役割を果たすと主張する。