現代ドイツ語の限定詞における格融合―最適性理論による分析―

中村渉

本発表の目的は、格融合を伴うドイツ語の否定冠詞keinのパラダイムを、最適性理論の枠組を用いて記述することである。格融合に関する大半の研究は、格の素性分解及び格素性の語彙的不完全指定から格融合を導いているが、分析の対象となる言語やパラダイムによって素性のセットが異なる等の問題が残っていた。

本発表では、恣意性の残る素性分解を用いることなく、違反可能な普遍的な制約群から、格融合のみならず、ジェンダーの融合も伴うkeinのパラダイムを導くことを提案する。具体的には、①格・ジェンダー・数の有標性階層から導かれる有標性制約、②格・ジェンダー・数の忠実性制約(MAX制約・IDENT制約)、③有標性制約から構成される局所的制約結合、④有標性階層の調和的制約配列から派生される有標性制約、の4種類の制約から構成される制約ランキングから、keinのパラダイムが導かれることを示す。