ヒンディー語における動詞複合によるモダリティー表現

西岡 美樹(大阪外国語大学非常勤)

本発表では,ヒンディー語学で一括して「複合動詞」として扱われてきたもののうち,語幹を使用したものが「モダリティー」という1つの文法範疇を成すものであることを論じた.ヒンディー語学で提示される,複合動詞による事象や行為の完了,完遂や突然性等の抽象概念は,非母語話者にとって実体を捉えにくいものにさせるのだが,統語的に見れば,命題文によって表現される事象や行為に対し,それがどのように行われるかという様態を表す,いわばモダリティーとして機能していることを明らかにした.代表的な動詞の例を観察しながら,最後に,モダリティーとして完了,完遂を表すとされる動詞群が,それぞれ原義にちなんだ意味を反映しており,微妙にニュアンスを違えていることも指摘した.

また,全体として,これらのモダリティーを担うものを,語学の「複合動詞」と区別して「動詞複合」と呼び替えた.