いわゆる打消の助動詞「ず」についての統語的分析

吉永尚

現代語の「ず」は否定名詞NPを構成する形式名詞的機能が強くなっており、「ない」のような否定句の主要部となる機能を殆ど失っていると考えられる。この性質は「この連休はどこへも行かずだ」「私の話を怒らずに聞いてくれた」「外へも出られず連絡もできずの状態が続いた」「焦らず怒らずを心がけている」「あの病気知らずが風邪で寝込んだらしい」などの名詞的成分や「飲まず食わず」などの名詞性が強い慣用句からも観察される。また、連用形中止法の「ず」では、動詞連用形中止法との共通点も見られる。「と」節では「ず」句は非文となるが「ない」句は許容される。「ない」は否定句(NegP)の主要部(Neg)要素であるが「ず」にはそのような機能が最早無いのでTの補部となる事ができない。古典語の先行研究においても「ず」は名詞として固まりやすく「事柄的側面」が強いという言及があり、名詞性は「ず」の本来的な性質であると思われる。