事象のスケール性に基づく英語不定目的語削除の分析

宮本大輔

英語の不定目的語削除(indefinite object deletion)の可否は動詞の語彙的意味から予測可能であると一般的に考えられており、近年では、Rappaport Hovav and Levinが一連の研究において、「スケール的変化(scalar changes)/非スケール的変化(nonscalar changes)」という、動詞が語彙化している事象のスケール性の違いに基づく語彙意味論分析を提示している。本発表は、事象のスケール性という概念についての概観の後、動詞の語彙的意味のみに基づくRappaport Hovav and Levinの分析では正しく説明できない言語事実の存在を指摘し、その上で、削除の対象となる不定目的語の量化性に着目し、動詞の語彙的意味と不定目的語の量化性との相関によって決定される事象のスケール性に基づく分析によって、英語の不定目的語削除が以下のように例外なく統一的に説明できることを示す。

(1)a.スケール的変化を表す文における不定目的語は削除不可能である。
   b.非スケール的変化を表す文における不定目的語は削除可能である。