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知覚の言語学に向けて:行為と知覚の関係はどう言語化されるか?

企画者:長谷川明香
司会者:西村義樹
コメンテータ:本多啓

知覚に関わる言語表現を取り上げて、その文法的・意味的特徴を考察する。これまで知覚は受容的な現象と捉えられることが多かったが、いくつかの先行研究で論じられているように、「自分」が積極的に外界に働きかけると捉え直すことで見えてくる部分も大きい。知覚動詞の構文をただ列挙するだけに終始せず、その背後にある知覚という現象、知覚者の存在について探るとともに、知覚動詞以外に知覚を表す言語形式としてヴォイスとアスペクト、証拠性にも目を向ける。また、知覚が、発話者や現場と繋がりの深い概念であることを確認し、ダイクシスと知覚の関わり方についても考察する。「相互作用(インタラクション)」「探索活動」「アフォーダンス」「現場」などをキーワードに、知覚という現象が人間にとってどのようなものとして認識され、どのように言語化されているのかを、各発表を通して複数の言語で検討し理解を深めたい。

知覚と構文:英語の知覚動詞

長谷川明香

主に英語の五感を表わす動詞(知覚動詞)を取り上げ、構文ごとの特徴や知覚様式ごとの特徴について考察する。英語の知覚動詞は、以下の(1)-(3)に現れる。

(1)意図的知覚を表わす構文(e.g. I tasted the soup)<知覚者が主語>
(2)非意図的知覚を表わす構文(e.g. I taste salt in the soup)<知覚者が主語>
(3)受容的知覚を表わす構文(e.g. The soup tastes salty)<知覚対象が主語>

各構文の意味や構文間の繋がりについて確認し、(3)において言語化されていない知覚者がどのような存在であるのかについて主観性との関わりで検討する。また、味・触・嗅覚の場合は(1)(2)(3)いずれも同じ動詞が用いられるが、視・聴覚では異なる。これに関し、同じ構文であっても知覚様式ごとに動機付けが異なる可能性にも言及する。日本語の対応表現との対照も適宜行う。

知覚とヴォイス:タガログ語のヴォイス現象

長屋尚典

行為とは行為者が対象に何らかの作用を及ぼすことであり、ヴォイスとは行為の発生と展開、収束に関する形式と意味の対応パターンのことである (Shibatani 2006)。知覚現象を知覚者が環境 (知覚対象) から情報を一方的に受容するだけのものと見なした場合、この種の現象は行為と考えられず、従ってヴォイス交替も示さないはずである。しかし、タガログ語には知覚現象にもヴォイス交替が存在する。同じ知覚経験を表すのに、環境を主語にしたヴォイス (「環境態」、ma- + 動詞語幹) と知覚者を主語にしたヴォイス (「知覚者態」、ma- + 動詞語幹 + -an) があるのである。本稿は、この二つのヴォイス、およびそれに関連する構文の分析を通して、このヴォイス交替の認知的基盤に知覚者と環境の相互作用があると主張する。知覚を、単なる情報の受容ではなく、知覚者と環境の相互作用として捉えてはじめて、知覚現象のヴォイス交替は理解できる。

知覚とダイクシス:日本語の「てくる」

古賀裕章

日本語の「てくる」を含む逆行構文(e.g.,「タロウが殴ってきた」)を知覚との関わりから考察する。逆行構文とは、人称の階層の下位に位置する参与者から上位に位置する参与者に行為が行われたことを表す、ヴォイスに関連する構文である(Shibatani 2003, 2006)。この構文には、「タロウが殴ってきたけどうまくかわした」のようにある種の表面接触動詞が使われた場合にはその結果(接触)がキャンセル可能になる一方で、「??タロウが荷物を送ってきたけど、まだ届いていない」のようにある種の使役移動動詞が使われた場合には結果(モノの到着)が含意されるという、一見矛盾する振る舞いが見られる(古賀2008)。本稿は、逆行構文のこの奇異な振る舞いを解く鍵が、発話者が現場において動詞事象を知覚できるかどうかにあることを示し、この意味的特徴が「くる」の持つダイクティックな意味に動機付けられていることを示す。

知覚とアスペクト、証拠性:シベ語の補助動詞

児倉徳和

本発表では、従来アスペクトや証拠性(evidentiality)の観点から分析されてきたシベ語(満洲=ツングース諸語)の補助動詞bi-、ila-、o-の機能的差異を、形容詞文に現れる場合を中心に検討し、以下の2点を主張する。

(1)従来アスペクトを表すとされてきた補助動詞ila-、o-が話し手が直接経験した事態を表し、従来間接経験を表すとされてきたbi-と同様に証拠性からの分析が可能であること。
(2)しかしこれらの補助動詞の機能的差異の説明は、「直接経験」と「間接経験」の対立のみでは不十分であり、知覚者と環境の関わりという面から知覚のあり方を区別することで初めて可能になること。

?証拠性は、Aikhenvald(2004)によれば五感による知覚をはじめとした情報の出所を表す文法範疇であり、本来的に知覚と密接に関係するが、本発表ではシベ語の形容詞文の分析を通し、証拠性と知覚の関係を考える。

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