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現代ビルマ語の願望表明文の文末要素 -sei_ の機能について

澤田 英夫(京都大文学部研修員)

(1) a. txu_ ein_ pyan_(^pa_)^sei_-Φ || 彼に家に帰らせてやりなさい.
b. nga_ ein_ pyan_^pa-ya. ^sei_-Φ || 私に家に帰らせて下さい.
c. txu_ ein_ pyan_-nain_^pa_^sei_-Φ || 彼が家に帰れますように.

上例中の -sei_ について従来2種類の分析がなされてきた.1. 主語+動詞句(命題単位)を取って主文を形成する助辞にこでは主文の「機能辞」と呼ぶ)またはその一部である.(txaun:lwin_ (1978) 他.) 2. 使役の助動詞である.(Okell (1969) 他.)このどちらもが正しくない.(1a-c) に対応する否定文で否定辞 ma- の他に文末に助辞 -ne. が現れ,これが機能辞と考えられる.これにならって (1a-c) でも対応する位置に機能辞 を設定する必要がある.ゆえに -sei_ は機能辞でもその一部でもあり得ない(1. の反証).また (1a-c) 各文頭の名詞句は,陳述文の主語と同様,動詞に後続する随意的な主語複数表示の助辞 -ca. との間に弱い数の一致を示す.ゆえにこれらの名詞句も主語であり,(1a-c) では使役につきものの文法関係の変更が起っていない(2. の反証).結局,(1a-c) は(2)と並行的な構造を持つ.

(2) min: ein_ pyan_(^pa_)-Φ || あなたは家に帰りなさい.

主文機能辞 -Φ/-ne,は〈願望表明〉の発話行為を表す.命題単位がコントロール可能な事象を表す場合,話し手から聞き手への働きかけが生じ,文は要求の読みを持つ.コントロール不可能な事象を表す場合は,働きかけは生じず,文は希求の読みを持つ.-sei_ が現れるのはこの機能辞に隣接する位置であり,このことは -sei_ が〈願望表明〉の発話行為にかかおる話し手の「動作モード」の1つを表すことを示唆する.-sei_ が希求 (1c) と容認要求 (1a, b) に現れ,直接要求(2)に現れないことから,-sei_ の表す「動作モード」とは,「聞き手に対して直接の行動を要請しない」という話し手の態度であると結論づける.

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