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ウゴル語における動詞形態論: 特に受動形態素に関して

野瀬 昌彦(関西外国語大大学院)

ウラル語族において,その中の1つであるウゴル語派には,ハンガリー語とボグル語,オスチャーク語とがある.そのウゴル語における受動態,受動構文に関して,動詞の形態論の立場からの分析を機能主義的な受動観でもって行なうものである.本発表で問題にするのは,ウゴル語における受動形態素の実態,ウゴル語においてなぜ受動がハンガリー語では衰退しボグル語とオスチャーク語では発展したのかということ,そしてハンガリー語の受動の衰退に対する代わりの受動構文の発生の過程,の3つである.これらについて,ウラル比較言語学のデータを基盤に置いた上で,形態論的及び認知的考察を進める.

先行研究でも,ウゴル語の受動形態素がそれぞれ形態的に異なる(祖ウゴル語や祖ウラル語の起源とはみなされない)ことや,その受動表現がハンガリー語では衰退し,ボグル語とオスチャーク語では発達した事実は指摘されている.しかしこの原因については簡単には説明することはできなかった.ここで,受動に関して機能主義的な観点から説明すると,被動作主を話題化させること,動作主を背景化させること,イベントを状態化させることの3点の機能に集約できる.文法において,この機能を受動形態素が背負っていることから,その受動形態素について,動詞形態論の考えを導入してウゴル語の動詞を改めて観察する.さらに文法化という認知的な観点からウゴル語のそれぞれの受動形態素を評価すると,ウゴル語の受動要素は祖ウゴル語の時代に特定の同一の形態が存在したとは考え難く,各ウゴル語が後に受動形態素へ独自に文法化させていったと想定できる.ハンガリー語での受動形態素の衰退については,受動態への関連性の低下と代わりとなる新たな受動形態素の文法化の発生が考えられる.この事実は受動形態素の文法化において,談話レベルと文法レベルの間に機能的側面が媒介している点に依っている.

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