英語に於ける能格構文について

有吉 淳一郎(京都外国語大)

Levin & Rappaport (1994) では,英語の能格構文は externally caused eventuality を示す動詞から生成される,すなわち語全的には対応する他動詞形が元で,それから detransitivization のプロセスを経て生成されるとされ,対象物の状態変化が Agent の介入なしで生じうる事が条件とされている.これば動詞 break のように交替を許す動詞が他動詞時の主語に Agent, Instrument, Natural Force と幅広い意味役割をとり動詞 write のように交替を許さない動詞では,主語が Agent に限られ,特に Natural Force を排除するという事実に反映するとしている.そこで他動詞構文時の主語により交替可能性が予測されるが,動詞 kill や destroy 等も動詞 break と同様の意味役割の項を主語にできるのに能格交替を許さない.よって他動詞構文時の主語の意味役割の広さによっては正しい予測がされない.

そこで本発表ではまず,能格交替を示す典型的な動詞によって表されるイベント内での力の流れについて考察し,一般的に Patient として考えられている基底の目的語はそれ自身が外的な力の人力を受けた結果,状態変化の推移を経る上での Actor であると仮定する.この仮定に従い,murder, assassinate, kill,または destroy 等,ある共通の意味をもつ動詞がなぜ能格交替を許さないのか検討する.そして The river broadened at the corner の類の文では主語が通例の Patient としての機能よりむしろ自律性を帯びており,Actor として認知されている典型であると考える.更に複合動詞に関しても,彼らによる solidify は自動詞化され humidify はされないという事実も,更に,他の動詞 sum, total, walk, march 等の交替に関しても,状態変化の推移の着点という点に着目しより一般性のある説明を試みる.