インドネシア語の従属節中の di- 形動詞の主語の省略に関する談話・機能論的要因

安田 和彦(名桜大)

本発表は,インドネシア語の時を表わす従属節の中で,接頭辞 di- が付加された動詞が用いられ,その主語が省略されている文を取り上げ,その主語の省略に談話・機能論的な要因が関わっていることを明らかにするものである.

(1)a,Perminantaanitu isusahsekali.
依頼その困難なとても
主語述語
旧情報新情報
b,Sesudahφ iditolaknyaii,diaiimengatakansebabitu.
~した後でその依頼彼が断る述べる理由その
接続詞主語(省略)述語主語述語目的語
旧情報新情報旧情報旧情報新情報新情報
前の文脈から予想されうる情報最も重要な情報

その依頼は非常に困難だった.彼はそれを断り,その理由を述べた.

上記 (1) は,ある小説の一部であり,二つの文から或るテキストである.そして,その二つ目の文 (1) b の従属節中で主語が省略されている.

これは,ある一人の人物の一連の動作について,前の文から予想されうる情報を従属節で,それに続くより重要な情報を主節で提示するという情報構造を作るために,従属節中の動詞句として di-nya の形が選択され,それに伴い主語となった要素が,文脈上の前後の関係から自明の容易に復元されうるという特徴を持ち,なおかつ何の特別な表現意図をになってもいないために,その前の文の主語を先行詞に省略されているということである.