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Scopal Interaction and NO Movement for Case-checking in Japanese

Yukiko Ueda (Kanda University of International Studies)

いわゆる数量詞の作用域に関する分析は,May 1997 の数量詞上昇分析(QR分析)以来,様々な研究が成されてきたが,近年,「動機付けのない移動は許さない」という極小理論の流れをくんで,QRという独立した操作を用いず,「形態的に動機付けられた移動に付随したかたちで数量詞の作用域の計算を行おう」とする分析がいくつか提案されている.そのひとつが,Hornstein 1995 である.そこでは,LFで,Case-checkingの為の移動によるA-連鎖の要素をFull Interpretationの要請によって,要求される一つを残して全て自由に削除し,その結果残された要素間のc-command関係がCI-interfaceで相対的作用域として解釈されると提案している.

本発表では,日本語の数量詞の作用域の計算に対して,以下のことを示した.

(1) 日本語の数量詞の作用域の事実は,Case-checking為の移動に完全に付随したHornstein 1995流の分析では説明しきれない.日本語の作用域の計算には,Caseの移動とは独立した移動が不可視統語のレベルで必要である.(ただし,その移動は,形態的に動機付けられたものである.)

本発表では,作用域を持ち,かつ,必ずCaseマーカーでマークされる日本語の離接的表現「か」を選び,それが,先ず,肯定対極表現 (PPI) であることを示した後,否定辞NEGとの作用域の相互関係(PPIの認可条件)から,英語と同様のCase移動に基づいた分析に従うと,否定文中の(3b)は離接的読みとしては非文になることを予測してしまい,上手く説明つかないことを示した.
(2) a. OKRoger ate [susi or unagi].(離接的読みとして)
b. *Roger didn't eat [susi or unagi].(離接的読みとして)
(3) a. OK太郎は[寿司か鰻]を食べた.(離接的読みとして)
b. OK太郎は[寿司か鰻]を食べなかった,(離接的読みとして)

また,目的語位置に現れた離接的表現「か」は,(4)に示すように,目的語のCase-checking位置よりも,さらにはNEGよりも構造的に高い位置まで不可視統語のレベルで移動していることを示した.
(4) ......[NEG [AgrOP [VP V]] NEG]......
◀────┘

(5)の基本構造と他言語から観察した(6)の目的語と副詞の統語的位置関係とその副詞の解釈を日本語の不可視統語にも仮定し,副詞「賢く」が文修飾の読みを持つか,様態の読みを持つかといった点から,「か」の統語的位置を確認した.

(5) ......[NEG [AgrOP [VP Adv. [VP obj. V]] NEG]...
(6) a. 文修飾解釈: ......[XP (obj.) [... [... [VP Adv. [VP obj. V]] NEG]...
b. 様態解釈: .....[XP obj. [... [... [VP Adv. [VP (obj.) V]] NEG]...
(7) a. 太郎は賢く[カイワレかモヤシ]を選んだ.(文修飾・様態)
b. 太郎は賢く[カイワレかモヤシ]を選ばなかった.(*文修飾・様態)
(8) a. 長島監督は賢く[松井か清原]を使った.(文修飾・様態)
b. 長島監督は賢く[松井か清原]を使わなかった.(*文修飾・様態)

詳しい分析は今後の課題としたが,「か」の移動先の可能性として,focus素性の照合位置の可能性を述べた.

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