'to not V' 型分離不定詞の生起条件について

森 貞(福井工業高等専門学校)

本研究では,現代口語米語から或る CNN transcripts corpus (178.4MB) を用いて 'to not V' 型の分離不定詞の生起条件(話者の言語心理)を探った.従来,分離不定詞使用の動機としては「文意の曖昧さの解消」があげられているが,(1) 文意に曖昧さが生じ得ない表現(構文)において当該分離不定詞が使用されていること,(2) 1) A is not B (B=to V) は 'to not V' 型への言い換えが不可能であるが,2) A is B (B=not to V) は 'to not V' 型への言い換えが可能であること,(3) 'to not V' 型の方が 'not to V' 型に較べて V への否定の効力が強く感じられること,の3点から,当該分離不定詞の生起条件を次のように規定した.【to 不定詞が否定される場合の元々の語順は 'to not V' であるが,通常は「丁寧さの原理」によって,to の直前に否定辞が移動する.ただし,話者の否定の効力を弱めたくない意識(《強調》《非難》等)が生じている場合には,否定辞を移動させないことがある.】