小栗田勉語の音節頭閉鎖音の変化とその特徴

田口 善久(千葉大)

本発表は,発表者が記述した勉語の一変種である小栗田勉語について,その音節頭閉鎖音の特徴を通時的に考察するものである.小栗田勉語は祖語からの音節頭閉鎖音の反映形において,元来知られている方言とは異なっている.本発表ではまず勉語諸方言の音節頭閉鎖音が祖語に再構される子音とどのような対応関係にあるかを見て,その次にそれがどのような音韻変化及びその相対的時間順序 (relative chronology) によって形成されたかを考察する.その上で,小栗田勉語の対応形からこの言語の音節頭閉鎖音が通時的にどのような変遷を経たかを示した.結論を述べれば,この言語は,勉語の他の方言と共通のいくつかの変化をおこしたが,それが異なった順序でおこっており,他の方言とは違い,鼻音性消失が最も早くおこった方言であると時徴づけられる.それによって,前鼻音化音系列における一見不規則な対応を変化の相対的時間順序の違いによって説明した.