ユカギール語における名詞の複数形接尾辞と音節構造の関係

長崎 郁(千葉大大学院)

本発表では,ユカギール語の名詞の複数性を表わす接尾辞に見られる異形態,/-pe/ と /-pul/の交替する条件について考察した. これまでの研究ではこの交替は名詞語幹の末尾音の性質が条件となって起こると考えられてきた.本発表では,ユカギール語には (C)V 対 (C)VV,(C)VC,(C)VVC,(C)VGC(= (C)VjC,(C)VwC)という対立が見られ,これは,音節の Rhyme 以下に分岐の見られないもの,つまり Light syllable と,Rhyme 以下のどこかに分岐の見られるもの,つまり Heavy syllable との対立であるとした上で,複数形接尾辞 /-pe/ と /-pul/ の交替は,名詞語幹の H と L の配列の違いが引き金となって起こることを明らかにした.この考えに基づき,名詞の複数形派生規則をたて,さらに,派生語では,この規則が派生された語幹全体に適用されるのに対し,名詞句や複合名詞中では,語幹の最後部の要素を境界として適用されていることを指摘した.