シベリア・ユピック語の語頭音節母音の二重化について

永井 佳代(京都大大学院)

シベリア・ユピック語には,語頭音節母音の二重化という現象がみられる.これは (C1)VC2ə(C3)- の語幹に接尾辞が付加される際に,形態音韻的変化の過程で生じる (C1)VC2əCV... という連続が,(C1)ViViC2CV... となるものである.この二重化を観察した結果,当該の語幹 (C1)VC2ə(C3)- に後尾辞が付加されて第2音節が開音節 C2ə となるとき,後続する第3音節の初頭子音が軟口蓋音である場合に起こることがわかった.

弱強型の韻脚構造をもつこの言語では一般に開音節 ə の ə はストレスを担う力が弱い.同系のアラスカ・ユピック語でも開音節 Cə の ə はストレスを担えず脱落し,そのストレスは先行音節に逆進的に付与されるという現象がある.このことからシベリア・ユピック語では,後続子音が軟口蓋音であって,語の第2音節である場合に限られてはいるか,Cə がストレスを留めておく力がない為に ə の脱落が起こり,先行母音の代償延長が起こったと解釈できる.