日本言語学会第144回大会

プログラム


-大会プログラム(PDF版)
-口頭発表・ポスター発表要旨
-日本言語学会第144回大会ポスター(PDF版)

期日: 2012年6月16日(土)・17日(日)
会場: 東京外国語大学(東京都府中市)
予稿集 2,000 円(予定)
大会中、保育室を設置する予定です(詳細はこちらから)。

6月16日(土)


13:00-18:00 口頭発表・ワークショップ
18:15-20:00 懇親会

6月17日(日)


10:30-11:50 会長就任講演
11:50-13:20 ポスター発表
13:20-14:00 会員総会・会長挨拶・大会校挨拶・日本言語学会大会発表賞授賞式
14:00-17:15 公開シンポジウム

公開シンポジウム

「知覚・感覚・感情をめぐる言語表現」


 

このシンポジウムの目指すもの

司会: 遠藤 喜雄(神田外語大学)
1980年代以来,他動性については言語類型論上の関心が高まり,主体が積極的に客体の変化や出来事を引き起こす典型的な他動構文を中心とした議論がなされてきた。これに対し,外的な刺激・情報・出来事の知覚や感情に関する表現は,他動構文との比較において変則的なものとして捉えられ,これを正面に見据えての議論が十分に行われてはこなかったようである。
 そこで,本シンポジウムでは主として知覚・感覚・感情の表現がどのようになされるかについて,日本周辺のいくつかの言語についての報告を行う。日本周辺の諸地域の地理的特徴との関連から考察することを目的とする。

唯物論か,唯識論か? ―アルタイ型言語における感情述語の諸相―

風間 伸次郎(東京外国語大学)
本発表では、日本から見て北西に位置する諸言語の感情表現(知覚・感覚も含む)を検討する。この地域には類型的に日本語とよく似たタイプの言語(河野六郎のいう「アルタイ型言語」)が分布する。具体的には、朝鮮語やアルタイ諸言語を扱う。これらの言語には、感情述語に形容詞によるものと動詞によるものの2種類が用意されており、特に形容詞による表現では感情主体が1人称に制限されるという現象がある。品詞の使い分けと人称制限の間には相関関係があり、日本語との類似が注目される。感情述語のとる格枠組みにも日本語との類似が観察される。本発表では、実相(evidentiality)の枠組みから上記の諸現象の包括的な説明を目指す。

中国語の知覚・感覚・感情表現 ―“痛快”と“凉快”の境界―

木村 英樹(東京大学)
多くの言語がそうであるように、中国語においても、知覚、感覚、感情と称される現象に対応する言語表現のかたちは、それらの現象が個人の身体に生じる内的な体験であることに起因して、典型的な他動詞構文――即ち、他者に向けての能動的な働きかけを述べる2項文――や、典型的な自動詞文もしくは形容詞文――即ち、外界の事物の状況や属性を述べる1項文――とは異なる特徴を有する。また、これまた多くの言語がそうであるように、中国語の知覚、感覚、感情の表現は、それぞれの現象についての概念化の差異に起因して、互いに異なる構造的特徴を示す。
 本発表では、中国語の感覚表現と感情表現を中心に取り上げ、典型的な動作表現と、典型的な状態(変化)表現および属性表現との連続性を視野に入れつつ、それらの意味と構造の特徴を、主として構文論の観点から概観する。

タイ語の知覚・感覚・感情表現

峰岸 真琴(東京外国語大学AA研)
タイ語はSVO基本語順を持つ孤立語である。知覚・感覚・感情の表現においては,外的な刺激を受容し,内的な変化を被る主体がSとして現れるのに対し,変化を引き起こす事物,情報,出来事およびそれら刺激を受容する部位,場所 (locus) がOの位置に現れる。経験の主体がSとして現れる点で,他動性の高い表現AV(P)と同じ語順をとることから,タイ語のSVO語順は他動性を表すための専用の語順ではなく,他動性に関して中立的な基本語順であることがわかる。
 本発表ではタイ語のSVO構文が知覚・感覚・感情を表す場合について,Sの有情性,Oの意味役割などを考察する。動作の「受影性 (affectedness)」の方向についてはSVO構文と関連する他動,動詞連続構文と,さらに非動作的ではあるが恒常的な属性を表す二重主語構文 (N1N2V)と対比して論じる。

インドネシア周辺の言語における知覚・感覚・感情表現

塩原 朝子(東京外国語大学AA研)
本発表ではインドネシア諸語の知覚・感覚・感情表現の特徴を紹介する。西インドネシア諸語は(ほぼ)同一の知覚・感覚・感情が自動詞構文、他動詞構文の両方によって表され、さらに、用いられる他動詞構文が使役構文、場所構文など複数種類存在するという特徴を持つ。一方、東インドネシア諸語の表現の特徴としては、人称代名詞が経験者を直接指示するのではなく、「所有代名詞+身体部位」が用いられる表現が多いということが挙げられる。
・カンベラ語の例 (Klammer 2004: 369)
Mbaha-nanya-ka na eti-na na maramba.
be.wet-3s.subj-perf art liver-3s.poss art king
「王様は喜んでいる。 (lit. 王様の肝臓は濡れている。)」
 これらの特徴はいずれも明確な「動作主体」と「動作の対象」が存在しない「知覚・感覚・感情」の意味的特徴に起因するものであると考えられる。

認知類型と心理述語

総括・大堀 壽夫(東京大学)
語彙構造の類型と普遍像を探求する試みは、認知人類学では親族名称や色彩語などを対象として、早くから行われてきた。言語的なカテゴリー形成が、言語外の実在とどのような対応を示すかを調べることは、学際科学としての言語学にとって興味深い問題設定である。例えば、感情を表す文型について、どの程度まで通言語的なカテゴリーを規定できるだろうか(ただし、キメを粗くすればいかようにも類型は出せるので、重要なのは精度である)。それは心理学的な基盤をもった自然類となるだろうか、それとも一種の民俗モデルが出てくるのだろうか。また、一般に感情と言われるものは、脳科学の面からは質的に異なる活動の集合であるが、それらは言語的な差異となって現れているだろうか。本報告では、いくつかの言語を参照しつつ、心的活動の言語的なカテゴリー化を分析することで何が示されるかについて、予備的考察を行いたい。