「ウチニ」構文―対立性と自制性―

山崎 和夫

国広氏は (1)~(3)の様な非文を説明するために意義素の「対比」に基づく「対立」制約 〝X ウチニ Y では「X → Y」である様な後続の期間の対比がないと真の対立をなさず非文となる〟をたてておられるが,筆者は先に,この不備を指摘し,(4)(5)の様な例から自制性制約 〝X と Y 両方に同一主体の自制的事柄はこれない〟を提案した。
(1) *この新聞は電車を待っているウチニ買った。 (2) *旅行しているウチニ色んな名所旧蹟を見た。 (3) *風邪でねているウチニ友達が見舞いに来てくれた。 (4) 戸が聞いているウチニ,紙を捨てた。 (5) ??太郎は自分で戸を押えているウチニ紙を外へ捨てた。
更に,事実関係に基づく対立性では次の様に(1)(2)の許容度が高くなる理由を説明できないと思える。((1)' 電車を待っているウチニ新聞を買っておいた(のは賢明だった) (2)' 旅行しているウチニ色んな名所が見れた(のは幸いだった)) 又この自制制約は「XY」という前提の urgency に基づいているため,「早くも」の読み(「XY」を前提として持つ)にはあてはまらない。従って一見自制性の反例とみえる「電車を待っているウチニ新聞を読んでしまった」等は文法的な文と正しく予測される。(3)の非文性はこの構文個有(Y には X の developmental な要素が来る)の制約によるもので,次の文が不自然であるのと平行的であると思われ,(電車を待っているウチニ友だちが見えなくなった/ ??友だちが声をかけてきた。)適切な環境では同じ内容でも自然な文となる。(風邪で長くねこんでいるウチニ友だちが心配して見舞いに来てくれた。)最後にこれらの考察を踏まえて,“X [+I, +SC] → [+developmental]”の様なウチニ構文の知覚制約を提案する。
国広哲弥 (1982) 『意味論の方法』
Yamasaki, K (1983) "Temporal UCHI NI Constructions, revisited, KLS 3