音節構造変化と英語の音韻規則

松森 晶子

この研究では,音節が階層的構造をもち,それが語派生の一段階で変化することがある,と考えることにより,音韻変化がひきおこされた原因を明示することができ,また従来無関係のものと考えられてきた音韻規則どうしの因果関係をもとらえることができるということを,英語を例にとって示した。
音節は,中心の母音と後続の子音から或るライム,および母音の前の子音から成るオンセット,という2つの構成要素を持つと考えられている。ここでは,「音節が連続した場合,ライムとオンセットは交互に出現しなければならない」という普遍原理の存在を仮定した。
もし,語の派生過程で,この原理に違反するケースが生じた場合(たとえば,語幹に派生接辞が付いた結果,ライムが連続してしまった場合),それを排除するために音節の構造変化が起こり,いくつかの音韻規則が誘発される。次の様な英語の規則が,その具体例である。
1. 母音の長音化
bath ~ bathe,loss ~ lose
Arab ~ Arabian, comey ~ comedian
custody ~ custodian, study ~ studious
2. 子音の有声音化 (s → z, θ → ð)
loss ~ lose, breath ~ breathe
Caucasus ~ Caucasian
3. 子音の口蓋化 (s → ʃ, z → ʒ)
society ~ social
confuse ~ confusion
これらの規則は,語幹 Arab,breath 等に,動詞や形容詞の派生接尾辞が付いた結果,上述の普遍原理に違反するライムの連続が生じてしまったために誘発されたのだ,と考えられる。つまり,これら一連の規則は,音節構造の変化に起因するという点で,相互に関連している,ということが言える。