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連続性(流れ)の観点からのロシア語接続詞 чтобы の分析

北上 光志

今まで,ロシア語接続詞 чтобы の研究はソ連アカデミー文法を中心に多くなされてきた。しかしこれらは一面的な分析(つまり,接続詞 что(~ということ)との比較)に終止し,その規定に曖昧な点がある。そこで今回,従来とは全く異なる次のような分析方法を新たに提案し,この問題を考察した: 連続性(流れ)の観点に立って чтобы の省略可能,不可能より чтобы の prototype meaning を探り当てる。この際次の四点を考慮する。(1)主部と従属部の語順,(2)主部と従属部の肯定一否定の関係,(3)主部と従属部の動詞のアスペクト的関係,(4)(1)~(3)の使用頻度。今回は чтобы の省略可能な用法(つまり,従属部が目的を表わす)にスポットを当てながら他の用法も分析した。(資料は小説を用い,чтобы の省略可能,不可能はインフォーマントの判断に基いた。)そして,次表のような結果を得た。

(省略率:高>低)
чтобы の省略率
語 順「主部+従属部]>「従属部+主部」>「主(従属部)部」
肯定―否定
アスペクト
一致 > 不一致
頻 度高 > 低
連続性(流れ)の観点からこの表をまとめると次のことが言える。語順,肯定―否定,アスペクトのすべての場合に,頻繁に用いられる(つまり,好んで用いられる)パターンの方がそうでないパターンよりも чтобы の省略がよく起る。換言すれば,思考の流れがスムーズな場合の方がそうでない場合より чтобы は省略されやすい。このことを逆に言えば次のようになる。思考の流れがスムーズでない場合の方がスムーズな場合よりも чтобы は残りやすい。つまり,「ひょっとして」という意外性つつかかりのニュアンスがある場合に чтобы の存在価値が見出される。また,今回の資料を用いて従来の研究が取挙げた чтобы を導く主部動詞の語彙グループ毎にその使用頻度を調べた結果,1) 願望を意味する動詞の用例が多い,2) 危惧を意味する動詞の用例が少ないことが分った。 さらに,1) に関連して чтобы の導く従属部が単独で一文を形成し願望(~しますように)を意味する用例があった。以上のことより,чтобы のprototype meaning は,『意外性への期待を表わす』という結論を得た。この結論により従来の研究の問題点は明確に説明できる。

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