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『〔満文〕大清太祖武皇帝実録』の倍用語表記から見た漢語の牙音・喉音の舌面音化について

山崎 雅人

『〔満文〕大清太祖武皇帝実録』(崇徳元年 (1636) 11月告成)の固有名詞を主とする漢語からの借用語の表記のうち牙音字・喉音字・歯音字に由来するものを,『満州実録』の漢文本と対校することにより,抽出し比較することが可能となる。1.見母字: ji šan (善),ci jiya (戚),cen jio jiyei (陳九階),jiyan jiyūn doo (監軍道),jin jeo (州),jiyang si (西),dung jing (東) 2.精母字: fung ji pu (奉堡),ioi hūng jiyan (兪鴻),hūwang jin (黄),fu jiyang (副),cang jing (長) 3.渓母字: ḱang ing ciyan (康応),cin dzung (宗),hiya guwe cing (夏国),lio cioi (劉) 4.清母字: ciyan sung (総),cing hoo (河),sioi guwe ciowen (徐国) 5.暁母字: li si mi (李秘),li ji hiyoo (李継),hoo si hiyan,hoo si siyan(賀世),hing san,sing san (山),hiong ting bi (延弼),ju si siyūn (朱世) 6.心母字: hoo si (河西),hioo šeng (聖),boo ceng siyan,boo ceng hiyan (鮑承),sin an (安),po(o) ting hiyang (頗延),hiowan fu (府)
見母字・漢母字・暁母字を ji [tʃi], ci [tʃ'i], si [ʃi] で書写しているのは,これらが借用された16世紀後期~17世紀初期には,既に牙音・喉音は舌面音として現代音と同じ音価で発音されることがあったためであろう。 また,5.の暁母字の中で,同一漢字に非舌面音の hi- と舌面音の si- の両方の書写形を用いた例が見られるのは,音価の「ゆれ」と考えられる。 さらに,6.の心母字の hi- で書かれているものは,『清文啓蒙』 (1730) にも類似した例が見られるが,借用の際の hypercorrection により,si- で書くべき心母字を暁母字であると誤って考え,hi- で写したものと思われる。このことから,当時暁母・心母が他の声母に先駆けて「尖団の合一」を生じ,同音価になっていたと推測出来る。

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