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日本言語学会第135回大会(2007)公開シンポジウム

否定と統語論

加藤 泰彦

一般言語理論と否定のシンタクスの研究は,相互にどのように影響し合いながら発展してきたのか。この領域で最近特に注目される進展はどのようなものか。さらに今後に残された未解決の問題とは何か。本発表では,過去半世紀の生成文法理論の発展に焦点を絞り,上述の問題を検討する。

はじめに否定のシンタクスにおける主なトピックを概観する。そして,特に,(i)初期理論による理論的洞察,(ii)原理・パラメータ論による分析の拡大,(iii) ミニマリスト・プログラムによる説明の深化,という観点から,理論と実証研究との相互交渉の様相をみてゆく。具体的なトピックとしては,(i)では文否定,統語関係,Affectednessの概念,(ii)では機能投射,パラメータ,否定規準,(iii)では説明のレベル,計算系の基本操作と否定,局所性とフェイズ,等を予定している。最後に,日本語分析からの問題提起として,否定極性・呼応の認可に関する最近の諸提案を取り上げ,その問題点と理論的含意を考察する。

否定と意味論

今仁 生美

「否定」は言語現象に複雑性をもたらすものであるというのは言語学における共通の認識であろう。その複雑性は意味論固有の領域では主にスコープの作用において認められるが,より興味深い現象は統語論,意味論,語用論の枠を超えたところにある。たとえば,近年活発に議論されている否定極性における否定の扱いは,各論にまたがる極めて難解な問題を提起する。このような否定の特性をより深く理解するために,本発表では,まず意味論における否定研究の歴史的概観(述語論理(演算),一般量化子理論(量化,普遍的属性),動的意味論(談話表示理論およびDynamic Predicate Logic:照応,動性,テスト))を行い,各段階で否定がどう理論化されてきたのかを見る。後半では,今後の否定研究の方向(日本語の否定研究も含め)を探る一つの手掛かりとして,否定極性の意味論的な側面を取り上げる。

否定と語用論

吉村 あき子

否定と肯定の対立としてとらえられる極性は,原則的には単純で対称的なものであるはずだが,自然言語における振る舞いはそのどちらでもない。否定が肯定に比べて有標であることはよく知られているが,否定関連現象の解明に,実はこの有標性が大きな役割を果たしている。そして今,意味論と語用論の境界領域で小競り合いが起きている(e.g. “Border War”, Horn 2005)。本発表では,NPI認可の語用論的分析(Horn 2002, Atlas 2007)や「尺度含意」生成(Chierchia 2004, Noveck 2004, Horn 2006),メタ言語否定(Horn 2001, Carston 2002, Mughazy 2003)を含む注目の現象に焦点を当てることによって否定の語用論研究の「今」を概観し,日本語などの言語事実の分析からその妥当性及び取るべき分析の方向性を議論する。

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