南琉球宮古伊良部島方言における認識モダリティとm語尾終止形について

下地 理則

本発表の目的は,伊良部島方言の文末終止の動詞形式の1つであるm語尾終止形(内間1985;以下の(1)の下線部)の意味を記述することである。
  (1) kuri=a  nau=ju=mai ssi-u-m.
    3SG=TOP  何=ACC=も 知る-PROG-NPST.M
    「こいつは何でも知ってる。」
 本発表では,発表者が収集した21編の談話資料(約42,000語)の分析から,m語尾終止形が以下の2つを同時に表す形式であると結論付ける。
  (1)【話者の確信】話者が命題の真偽について確信を持っている場合にのみ使われる。
  (2)【聞き手にとっての新情報】聞き手が命題の真偽について情報を持たない,あるいは間違った情報を持っている(と話者が判断する)場合にのみ使われる。
 類型論的に見ると,m語尾終止形は【話者の確信】という点でvalidationality(e.g. Weber 1986)を標示する形式であると指摘できるが,m語尾終止形のもうひとつの特徴である【聞き手にとっての新情報】は,話者と聞き手の両方を考慮する必要がある。この点で,伝統的な「話者中心の」認識モダリティ論に対して興味深い例を提示していると言える。