長距離および逆行束縛について

柴田 義行

本発表では,英語の照応形が長距離束縛と逆行束縛の両方とも原理上可能な環境においても,解釈上,長距離束縛の方しか得られず逆行束縛に対しては著しく容認度が下がるという現象,及び,そのような文の補文を受動態にした場合に見られる次のような指示関係について論じる。

  1. John thought that pictures of himself disgusted Tom.(himself = John/*?Tom)
  2. b. John thought that Tom was disgusted by pictures of himself.(himself = John/Tom)
(a)ではBelletti and Rizzi(1988)に従うと,Tomによる逆行束縛も成立するはずだがその容認度は低い。(b)ではChomsky(1986)に従うと,himselfの統率範疇は補文IPであるはずだが,主節のJohnとの指示関係も成立している。これらの指示関係について,LFで満たす束縛条件Aと移動の再構築および再構築適用に対する制限を仮定することで分析を試みる。