指示詞と視点―日中韓比較研究―

中本 武志
李 美賢
郭 玉英

日本語(J)・韓国語(K)・中国語(C)の指示詞には次のような相違がある。現場指示用法では,話者の領域にある事物は「コ/i/zhe」,発話の現場にあって話者の領域にはない事物は「ソ/ku/na」で指示されるが,JとKでは指示対象が遠ければ話し手(S)と聞き手(H)の視点が共有されて「ア/ce」が用いられる。ただし,Jでは視点を共有するかどうかはSの主観によるのに対し,KではSとHが近ければ視点を共有し,離れれば分離する。文脈指示用法では,SとHが情報を共有するとき「ア」を用いるJに対して,Kでは「ce」が使えず,「視点の共有」は「情報の共有」へと拡張されていないことが分かる。Cでは「zhe/na」に使い分けに,相手が同じ情報を持っているかどうかは関係ないが,「zhe」なら指示対象が一般的なtype解釈を,「na」なら指示対象が具体的で個別的なtoken解釈を持つなどの特徴がある。