日本語の直示的複数表示「タチ」

金子 真

本発表では,「タチ」に課される制約のいくつかが英語の指示詞に共有されることを指摘し,特定性を示す指示詞をnoteworthyという概念を用いて分析するIonin (2006)の提案をもとに,「Xタチ」の使用には,その外延が非均質な場合,「あるコンテクストにおいて,Xの外延がXタチの外延の中で最大の言及価値を持つ」という条件が,均質な場合,「あるコンテクストにおいて,Xタチの外延のどの成員も,標準以上の一定の言及価値 (特定性) を持つ」という条件が課される,と提案する。そしてコンテクスト依存性と特定性を仮定することにより,「Xの外延がXタチの外延を代表する」といった従来の分析では捉えがたい,次のような現象を説明することを試みる:「私たち町村派」や「私たち市民グループ」に比べ,「私たち町村たち」や「私たち市民たち」は容認度が低い;無生物名詞や不定代名詞「誰か」とは原則的に共起しない。