フィンランド語の動名詞の統語論的・語用論的機能

千葉 庄寿 (麗澤大学)

 本発表では,従来形態論的な生産性・統語プロセスの観点からのみ考察されてきたフィンランド語の動名詞 (派生接尾辞-minen) について,大規模な文語コーパスを用いて出現環境を調査し,(a) フィンランド語の動名詞がほぼ共通の出現環境をもち,語彙化がほとんど見られないこと (b) 他動詞派生の動名詞が,目的語に対応する修飾要素を伴って出現すること (c) 目的語位置に現れにくいこと (d) 節の最初の構成素を形成する頻度が高く,また (e) 文脈上前後のつながりのある内容が多く述べられること,の5点を中心に調査結果を示した。その上で,動名詞が用いられる語用論的な機能として以下の2点があることを主張し,(b, c) と (d, e) の分布に統一した解釈が可能であることを示した:(1) 既知の動作や状態を,節または句の主要な構成素にまとめる (2) 話題として展開されるべき新情報を提示する。