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抱合と複統合性
―フィールドからみえてくる言語の多様性―

企画:日本言語学会危機言語小委員会

司会/発表者1:渡辺 己(香川大学)
発表者2:呉人 徳司(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)
発表者3:中山 俊秀(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)
発表者4:宮岡 伯人(大阪学院大学)

本ワークショップの参加者4名は、それぞれが「複統合的」と呼ばれる言語の調査・記述にたずさわってきた。ところが、複統合語として括られることはあっても、それぞれの言語が見せる形態統語的性質は決して一様ではない。そこには、「抱合」をおこなう言語もあれば、きわめて統合度は高いにもかかわらず抱合はもちいない言語もある。そこで本ワークショップは、大きく分けて次の2点を目的として企画された。

  • 「抱合」と「複統合性」というふたつの異なる概念の整理
  • 特に「複統合性」というタイプに括られる言語の多様性についての討議

抱合と複統合性:概観

渡辺 己(香川大学)

世界の諸言語には、(古典)中国語に代表されるように、基本的に一語が一形態素のみによって構成されている、いわゆる孤立語がある一方で、一語が複数の形態素によって構成され、そこにさまざまな概念を盛り込む言語がある。一語にどれほどの形態素が盛り込まれるかを、その言語の統合度と呼ぶならば、統合度が高い言語は「複統合的あるいは輯合的(polysynthetic)」と呼ばれる。

一方で、「抱合(incorporation)」とは、動詞に名詞や副詞などを形態的に合体させ、新たな動詞を作る生産的な語形成の手段つまり形態的手法である。すなわち、抱合は語幹合成の一種である。したがって、名詞語幹がかかわっていようと、そこに動詞的接辞が付くことによって形成された動詞(いわゆる出名動詞)にみられるのは抱合ではない。逆に、動詞語幹に、例えば名詞的要素が付加されようとも、それが(名詞語幹ではなく)接辞であれば、これもまた抱合とは言えない。主語や目的語を表わす人称接辞が動詞語幹に付けられても、これも同様に、抱合ではない。

複統合語のなかでも、その語形成にもちいられる形態的手法はさまざまである。もっぱら接尾辞のみをもちいるエスキモー語のような言語もあれば、接辞法の他に重複法もふんだんにもちいるスライアモン語(セイリッシュ語族、カナダ)のような言語もある。

その他、複統合語のタイプとしては、一語のなかにあらわれる形態素の辞順が(おおむね)固定している言語(「スロット型」)と、そうではない言語(「非スロット型」)が考えられる。

(なお、本ワークショップでは、以下の発表を、それぞれが取り組んでいる言語について、抱合と複統合性という観点からの最低限の紹介にとどめ、このふたつの現象にかんする活発な議論に重きをおくよう試みた。)

チュクチ語の抱合と複統合性

呉人 徳司(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)

チュクチ語(チュクチ・カムチャツカ語族、シベリア)は、統合度が高く、さらに抱合をふんだんにおこなう言語である。名詞抱合をおこなう場合でも、抱合する名詞は、他動詞目的語、自動詞主語、あるいは手段・道具を表わす名詞や位置を表わす名詞など、さまざまである。

ヌートカ語の語彙的接尾辞と複統合性

中山 俊秀(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)

ヌートカ語(ワカシュ語族、カナダ)は、エスキモー語ほどではないものの、ある程度の統合度の高さを見せる言語であるが、抱合はおこなわない言語である。この言語には「語彙的接尾辞」と呼ばれる、(文法的ではなく)語彙的な意味を持つ400以上もの接尾辞があり、それが語形成において語の統合度を高めている。

エスキモー語からみた複統合性の諸問題

宮岡 伯人(大阪学院大学)

エスキモー語(エスキモー・アリュート語族)は接尾辞を唯一の手法とする非スロット型の複統合語である。ひとつの語幹にいくつもの接尾辞が付き、統合度はきわめて高くなりうるが、語幹合成はもちいない、すなわち、抱合はおこなわない言語である。

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