差異否定型トートロジーの解釈スキーマ

酒井 智宏 (東京大学大学院/東京大学COE特任研究員)

メンタル・スペース理論の枠組みで、「SB ではX がX でなくなる」に対立する形で発話されるトートロジー「SB でもXはXだ」の解釈スキーマを提示した。

文形式の相違にもかかわらず、コピュラ文「X はX だ」は変化文「X がX でなくなる」の否定である。両発話はスペースM1 の要素x が一般的知識領域の要素X と結合され、かつx が同一性コネクターによりスペースM2 の要素x’と結合されていることを前提とし、x’をX と結合するコネクターの妥当性を問題にする。「X がX でなくなる」はその妥当性を否定し、「X はX だ」はその妥当性を主張する。このスキーマから、(i) 情報的価値の存在、(ii) SB 内部における「も」の生起、(iii) 属詞の属性的解釈、(iv) メタ言語的解釈と事実的解釈との間の曖昧性、というトートロジーの4 つの性質を導出することができる。