長距離受け身のHPSGに基づく分析

橋本 力(神戸松蔭女子学院大学大学院)

HPSG に基づいて,日本語の統語的 V1-V2 複合動詞に関わる現象である長距離受け身を分析した.まず,統語的複合動詞を意味役割付与の観点から3種 (A,B,C) に分類し,それぞれに異なる統語構造を想定した.Aでは埋め込み VP からの主語繰り上げ,Bでは V2 の主語による埋め込み VP の主語のコントロール,Cでは V2 の主語,目的語による埋め込み TVP の主語,目的語のコントロールが関わる.これらの構造と HPSG による直接受け身の分析から,Cタイプの複合動詞のみが長距離受け身可能であることが正しく予測される.本稿の分析はさらに,動詞句照応,願望形,主語尊敬化,目的語尊敬化における,A,BタイプとCタイプの間の振舞いの差異と,V1 内直接受け身の容認性に関する振舞いを説明する.なお本文法はコンピュータ上で動作可能であり,この点についても述べる.