韻律階層と韻律境界

時崎 久夫(札幌大)

Selkirk (1984) などで主張されている,韻律範疇に基づく厳密階層仮説には,韻律範疇として何かいくつ必要か,また仮説の反例をどう説明するかといった問題点がある.

この発表では,統語境界を韻律境界へ写像する規則と韻律境界を削除する規則により,新たな韻律範疇を仮定せずに,問題となる英語の同化現象を説明できることを示した.また,さまざまな音韻現象の適用する領域は,音韻境界を一定数ずつ削除することで規定できることを英語の例を使って示し,その帰結として厳密階層仮説を自然に導き出せることを論じた.この仮説の反例である中国語廈門方言の調音化とポーズ及び声調変化については,韻律境界を音調とリズムの2種類に相補的に反映させているという考えを示した.結論では,韻律範疇より先に音韻境界が定義され,それを音韻現象が反映することを述べた.