中国語の動詞連続と使役文・受動文について

沈 力(京都大研修員)

中国語の動詞連続には語と語,句と句の二つのレベルの連続がある.どのレベルの連続にも意味的には様々なパターンがあるが,構造的には基本的に内心構造である.本発表では,中国語の動詞連続一般について(1)のような制約が成り立つことを提案する.

(1) a. 修飾関係なら主要部末位である.
b. 動補関係なら主要部頭位である.
c. 並立関係なら主要部両位である.

(1) によれば,二つのレベルの動詞連続にはそれぞれ三つの構造があることが予測され,その中で VP 連続に主要部頭位の構造があるか否かが問題である.本発表では,(2)のような使投文と受動文及びその類の構文は主要部順位の VP 連続であると考える.

NP0V1NP1V2NP2
(2)a.張三李四打了王五./張三は李四に王五を殴らせた.
b.張三李四打了脳袋./張三は李四に頭を殴られた.

(2) には NP1 が V1 の補語なのか V2 の主語なのかという問題がある.この問題については,次の四つの理由により,NP1 は V1 の補語と見たほうが妥当であると主張する.1) NP1 と V2 の問に意味的選択関係がない.2) VP2 の主語は NP0 として解釈できる.3) V1 と NP1 の間にポーズが挿入できない.4) NP1 が補語と同じように「有」にマークされえない.よって,(2)の構文の述語は VP 連続である.次は,主要部が VP1 なのか VP2 なのかということが問題になる.この問題については,次の二つの理由により,VP1 が主要部であると結論する.1) V1 の項が継承されている.2) V1 のアスペクト的な性質が継承されている.最後に,非主要部の「主語」はなぜ常に V1 の補語だと解釈されるかという問題があるが,これは VP 連続の意味的な制約によって捉えられると考える.即ち,非主要部の「主語」は主要部の意味によって決められると考える.