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イテリメン語における文法的否定表示

小野 智香子(千葉大大学院)

本発表ではイテリメン語(カムチャッカ半島・チュクチ・カムチャッカ語族)西部方言における否定表示構造の解明を試みた.イテリメン語の否定表示の構造をまとめると次のようになる.(1) qaʔm・動詞語幹+-(ka)q/-kin/-kinkin・述語動詞(直説法過去・現在,第3不定詞),(2) zaq・動詞語幹+-(ka)q・述語動詞(命令法2人称),(3) wejaq・動詞語幹+-(ka)q・述語動詞(命令法3人称),(4) xeʔnʹc・動詞の仮定法または命令法の述語形.これに関して,本発表では以下の点を主張した.1. Володин (1976) (注)は (1)(2)(3) に関して,否定詞・動詞語幹+否定接尾辞・述語動詞という順序の安定を主張しているが,実際は述語動詞は否定文の必須要素ではなく,述語動詞と動詞語幹+否定接尾辞の順序は固定していない.2. (1) に関して,qaʔm~-kinkin は「第3不定詞の否定」 (Володин 1976) ではなく,-kinkin は否定接尾辞のひとつと考えるべきである.3. (1)(2)(3) に関して,qaʔm, zaq, wejaq~-(ka)q は動詞の「接周辞」 (Володин 1976)ではない.両成分の間には動詞とは別のカテゴリーに属する要素が挿入できるため,qaʔm, zaq, wejaq は動詞の接頭辞ではなく独立した語である.4. (4) に関して,Володин (1976) は第1成分を xeʔnʹc,第2成分を直説法未来時制・命令法・仮定法であるとしているが,xeʔnʹc と命令法の組合わせが未来の事柄に関する否定を表現するのであって,形態論的にみて xeʔnʹc と同時に動詞の直説法が現れることはない.5. (1)(2)(3) では述語動詞は否定表示の必須成分ではないので,否定表示の先頭に現れる否定詞そのものがそれぞれ異なる否定の内容を明示することができる.つまり,(1) qaʔm は「否定的内容の叙述」,(2) zaq (3) wejaq は「否定的内容の命令」,(4) xeʔnʹc は「否定的内容の推察」を示すと考えられる.

(注)Володин А. П. (1976). Ительменский Язык , Ленинград.

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