Harmonic Phonology: 日本語の動詞形態を考える

田端 敏幸(千葉大外国語センター)

日本語の動詞形態論で用いられるデフォルト子音を /r/ と考える立場をとり(例 tabe[r]u),一連の形態素 {sase} {rare} {reba} {yoo} {m} の先頭子音に関して,子音挿入分析の可能性を検討しその妥当性を考えてみた.{sase} {rare} {reba} {yoo} {ru} における先頭子音が挿入子音であると考えるべき状況証拠はこれらの形態素を子音終わりの動詞語幹に接続させる場合,先頭子音の /r, s, y/ が削除以外の音韻過程を一切受けないことから示唆される.それでは,例えば,{sase} と {rare} はどのように表示すべきであろうか.本発表では,この二つの形態が構造上きわめて平行性の高いことに注目する.まず {sase} と {rare} は母音の配列が共に {a-e} であり,しかも,第一子音と第二子音が同じであるという特徴をもつ.すなわち {sase} の場合は第二子音を指定しておけば第一子音はそれと同じになるという情報だけで音韻表示としては十分である.{rare} の場合はさらに /r/ をデフォルト挿入子音と考えれば第一子音と第二子音が同じであるという構造さえ示せばいい.以上のことをインデックスを用いて示せば,{sase},{rare} は [ ]i a si e,[ ]i a [ ]i e のようになり形式上 specific-general の関係にあることがわかる.動詞の語幹に {sase},{rare} を接続させる場合,このように余剰性を取り除いた形式を用いるべきであるというのが本発表の主張である.