バスク語アスペイティア方言の動詞の単純形について

吉田 浩美(東京大大学院)

バスク語の動詞は,直説法においては基本的に「動詞の分詞+助動詞」という複合形をとるが,限られた少数の動詞にの方言では10個)はこのほかに助動詞を伴わずに動詞それ自体が活用変化する単純形という形を持つ.単純形がもっともよく使われるのは動作の進行・状態の継続を表わす場合であるが,未来や定期的な行為を表わすこともある.単純形が何を表わすのかを探るために,インフォーマント調査によってデータを収集し分析したところ,次のようなことがわかった.

a) 単純形は動作の進行・状態の継続を表わす.b) 未来の行為については,様々な客観的な要素によって具体化され決定されたこと,今すぐ行うつもりのことは単純形で言う.話者の固い決心は遠い未来に属することほど強くダイレクトな言い方となり,他者に関する話者の確信はごく近い未来に属することのみ単純形で言える.c) 定期的な行為に言及する単純形は,強調的・ダイレクト・ぞんざいな表現として,しかも定期的であることを表わす語句が文の焦点である場合にのみ可.d) 単純形は強調的・ダイレクト・ぞんざいな表現となることがある.

a) ~d) から,単純形はまず進行・継続を表わすものであり,定期的な行為については相当な制約のもとにのみ使われることと完了した事態を表わすような用法がないことから,現在から先のことを表わすのに好まれると言える.また,単純形が強調的・ダイレクト・ぞんざいな言葉遺いとなるのは,単純形が進行・継続を表わすものであることと関係がある.ある事態を今実際に目のあたりにしているかのように語ることによってインパクトが強められる可能性があり,また断言する言い方がぞんざいに響くことも有り得ることだからである.結論として,単純形は「目の前で進行・継続中の動作や状態を表わす表現,また現在から先のことを,現在と密接に関係のあるものとして現実感をもって断言する表現である」と言える.