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日本語の小説における引用構文の談話的働き

井上 光志(京都産業大)

本発表は,「と」および述部要素を伴う「作者のことば」と「登場人物のことば」から構成される2タイプの引用構文(「作者のことば」に発話動詞が用いられているもの(Aタイプ:「私は賛成できない」と太郎が言った.)と発話動詞以外の動詞が用いられているもの(Bタイプ:「私は賛成できない」と太郎が立ち上がった.)の小説における談話的働きを論じる.従来の2タイプの引用構文の談話的働きについての研究,とりわけBタイプに対する研究は十分とは言えない.本発表は次の観点から2タイプの引用構文の談話的働きを考察した(分析資料として最近の小説10作品を用いた).1) Hopper P.J. & Thompson S. A. (1980) の理論と引用構文の関係,2) 物語の中の重要人物と引用構文の使用頻度,3) シチュエーションでの登場人物の数と引用構文の使用頻度: 1) 物語は物語の流れに直接的に関わることがら (foreground) とそれを付随的にバックアップすることがら (background) から構成される.これらに関する Hopper & Thompson の理論を用いて2タイプの引用構文の談話的働きを調べた結果,両引用構文とも background よりも foreground と関係が深い.2) 発話回数が多い程その登場人物はシチュエーションの中で重要な働きを担う.重要人物は foreground に関わる最も典型的な要因と言える.物語の各シチュエーショソン毎に2タイプの引用構文の使用頻度と登場人物の発話回数の関係を調べた結果,Bタイプの方がAタイプよりも重要人物に対する指向性が強い.3) 登場人物の数に関連して2タイプの引用構文の使用頻度を比べると,Bタイプ方がAタイプより登場人物の多いシチュエーションで集中して用いられ,誰が重要人物であるかを示そうとする働きが顕著.

以上のことから,2タイプの引用構文とも foreground の特性を共通して持っているが,Bタイプの方がAタイプよりも foreground と強く関係していると結論できる.

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