日本語の数量詞遊離について
―機能論的分析―

高見 健一(東京都立大)

本発表は,日本語の数量詞遊離に対する Miyagawa (1989) の統語論的分析の不備を指摘し,機能論的代案を提示したものである.

Miyagawa (1989) は,数量詞(又はその痕跡)とそれが修飾する名詞句(又はその痕跡)は互いに c 統御しなければならないという相互 c 統御条件を提案して,次の様な文の適格性を説明している.

(1) ?*学生が,[VP 本を3人買った].(非能格動詞)

(2) 客が,[VP 旅館に3人着いた].(非対格動詞)

(3) *太郎が [PP 包丁で] 2本,刺身を作った.(付加詞)

しかしこの説明は,(i) 非能格動詞でも,主語を修飾する数量詞がVP内に遊離でき,(ii) 非対格動詞でも,主語を修飾する数量詞がVP内に遊離できず,(iii) 付加詞の場合でも数量詞が遊離できる場合があり,不十分である.

(4) 灘高の生徒は,[VP 毎年東大を80名以上受験する].(非能格動詞)

(5) ?*生徒が [VP この階段で突然3人転んだ].(非対格動詞)

(6) [PP 学生から] 5人,お金を集めましょう.(付加詞)

数量詞遊離を許す名詞句のみが主題化を許すことから,まず,どのような名詞句から数量詞遊離が許されるかに関して (10) の仮説を提案した,

(7) *包丁,太郎が刺身を作った. (cf. 3)

(8) 学生,私の方でお金を集めます.(cf. 6)

(9) 数量詞遊離に課される制約: 文中にある名詞句が,主題として機能することができる場合にのみ,その名詞句は数量詞遊離を許す.

さらに,遊離可能な数量詞は,文中で生じ得る位置に関し,次の制約を受けることを提案した(久野 (1978),高見 (1995) 参照).

(10) 日本語の文の情報構造: 日本語の文は,情報の重要度が低いものから高いものへと流れ,動詞直前の要素が最も重要な情報を担う.