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関係名称はどのように記述されうるか(グイ語の場合)

大野 仁美(麗澤大)

二義性を許さない抽象的指示物によって構成される「親族名称」あるいは「関係名称」は,言語学・人類学・社会学等の学際的研究が必要とされる分野である.言語学的研究という観点から言えば,そのもつ意味場が明確に設定可能なことから,語彙の成す意味体系を考察する格好の対象とされてきた.そしてその際には,それぞれの語彙の対立を明らかにするのに有効な方法である成分分析が用いられてきた.また,それぞれの名称の持つ意味の記述という点から見れば,「エンサイクロペディア」的な記述と「言語学」的な記述のどこで境界を引くかが問題となる.が,それは到底峻別できることはなく,"exotic" な言語を記述する場合―「母親」や「父親」といった語の定義から記述を始めなければいけないような―は特にそうであると言えるだろう.

しかし,関係名称体系を考察する上で重要なことは,二義的な人間の存在は許されないのだから,自己と他者との関係を一貫して定義し予測することを可能とするルールが社会の成員全員に共有された知識として存在するはずで,そのルールを記述することではないだろうか.

本発表で具体例として提示するグイ語([glúı], 中央コイサン語族に属す)の関係名称は,全くの外来者を含む「血縁関係のない」他者をも示すのに用いられ,自己が何らかの関係の存在を確認できる人間全体を分類する体系であるといえる.同時に,この社会においては複数の恋愛・婚姻関係がごく普通に見られるので,ステップ・キン,ハーフ・キンも分析の対象に入れる必要がある.そして,グイの人々は,一世代上の人々の関係をもとに(その関係が何に基づくのかを明確には知らなくても)一世代下の自己と他者との関係を,彼らの言語における名称を用いて(当然のことであるが)規定することができる.そしてその解釈は成員間で一致する.このようなバーバル・ディフィニションによる関係名称の記述の試行例を本発表では示した.

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