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否定 (negation) とは何か?
―世界の言語によく見られる否定文の構造的特性について―

本田 伊早夫(名古屋短期大)

肯定文と否定文の構造上の違いについて世界中の言語を比較対照した時,お互いに似通ったいくつかのパターンが,かなり多くの,様々な言語において見い出されることを指摘した.指摘したパターンは以下の6つ: 1) 肯定文が否定文になると,一般的には存在や静的状態を表わすのに使用される動詞(英語の be のような動詞)が付け加わるパターン,2) 否定要素自体が動詞であるパターン,3) 否定文で使用される動詞が,名詞と同じ,あるいはそれと極めて類似した活用を示すパターン,4) 肯定文が否定文になると動詞が名詞化されるパターン,5) 他動詞が否定文で使用される時,肯定文において示すような他動詞としての活用ではなく,肯定文において自動詞が示すのとかなり似た活用をするパターン,6) 否定文で使用される動詞,あるいはその活用の形態が,肯定受動文における動詞,あるいはその活用の形態と同じ,またはかなり似ているパターン.

これらのパターンに共通することは,肯定文が否定文になると,一般的にはより静的状態,動作を表わすのに使われる動詞(やその形)が用いられるようになることと言えよう.否定文で表わされることがらは,肯定文で表わされることがらのように実際起こったできごとではなく,lexical verb で表わされる事件に実際に参加している participant はおらず,また,ある時間の中でその事件の様態が変化するものではないということを考見合わせると,上記のようなパターンが使用されても,全く不思議なことではないと言えるかもしれない.

これまで,肯定文と否定文は論理的価値は違うが,その表わす proposition の内容は同じものであると言われてきたが,否定というカテゴリーの研究も,そのような西洋哲学,論理学の伝統に基づく定義から脱却して行われるべきであるということを指摘した.

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