ヴェンダ語動詞のアクセント

湯川 恭敏(東京大)

ヴェンダ語というのは,南アフリカとジンバブエの国境地帯に話されるバントゥ系の言語で,南(西)バントゥ諸語の一つである.

この言語の動詞は,バントゥ祖語のアクセントの型の区別,すなわち語根母音(のみ)が高かったもの(A型と呼ぼう)と語根母音を含めて全体が低かったもの(B型)の区別を(区別としては)保っている.動詞不定形(構造は u +語幹+ a)の例をあげると,以下の如くである.X は任意の音素列をあらわす.

A型: urawá「なぐる」,uvhóná「見る」,uvhúláhá「殺す」,ukópólólélá「~をまねる」

(uで表示できる)

B型: uma「倒れる」,uwana「見つける」,ulifhela「弁償する」,uṱuṱuwedza「励ます」

(uXで表示できる)

「対格接辞」(0で表示)例えば「私たちを(に)」という意味の ri がはいると,A型は u0X́ で表示でき(例: urivhóná),B型は u0CV́CV́X で表示できる(例: uriṱúṱúwedza).

直説法の各形を見ると,語幹+ a の部分のアクセントは,A型の場合,あとに何も続かなければ,X́,X,CV́X のいずれかであり,B型の場合,X CV(´)CV́X,CV́Xのいずれかである.そのあらわれ方はかなり規則的といえそうだが,A型に「A型らしさ」といえるものがあまり認められず,ただ(多くの活用形において)B型とは異なるアクセントを示すだけという状態のようである.

この発表は,1994年と96年における南アフリカにおける調査(文部省科学研究費補助金による)にもとづく.