「再帰中間構文」再考

今泉 志奈子(大阪大大学院)

本発表は,「再帰中間構文 ("reflexive middle")」という名称が与えられている"The door opens ITSELF." 等の構文を取りあげる.このタイプの構文は,「中間構文」("The door opens easily.") との表層上の類似性からこの名称で呼ばれ両者間に際立った差異は認められていないが,実際には両者が異なる真理条件を持ち英語話者もその使い分けを意識している.そこで本発表では,従来の英語学における「再帰中間構文」という名称の不適切な使用により,実際には異質の構文がひとまとめに扱われてきた点に問題があると考え,以下の5点を主張する: (1) 「再帰中間構文」は中間構文の一変種ではなくむしろ能格文と意味的に重なる,(2) 「再帰中間構文」という名称で一括りに扱われてきた一連の構文は,形態的変化を伴わない自他交代を示す open, break 等の能格動詞から派生される open タイプと,sell, drive 等の他動詞用法が優勢な動詞から派生される sell タイプに下位分類され,生産的な前者を中核的用法,後者を周辺的用法として区別する必要がある,(3) 能格文の自動詞用法が動詞の概念構造レベルにおける外項の抑制(影山 1994b, c)により派生されるのに対し,open タイプの「再帰中間構文」は外項の副詞句への降格操作により派生される.一方 sell タイプには降格操作は適用されず他動詞構造が維持される,(4) sell タイプは,他動詞構造を維持しながら再帰形「自分を」を目的語にとることで文の他動性を低くし,自然発生的であることを協調する点で分離不可能所有構文 (IPC) と連続性を持つ,(5) 英語の再帰形は様々な形態(音形の有無,「部分句」等)で具現するがそれらは文の他動性を軸に同一線上に位置づけられる.「再帰中間構文」の周辺的用法から IPC,他の構文への連続性をたどることで,英語にもヴォイスとしての再帰形が(音形を持たない形で)存在する可能性を示し,日本語においても同様の現象が観察されることを示す.