ポライトネスにおけるフェミニズム言語学の再考
―日本と韓国の大学生の依頼談話における丁寧度の男女差の比較を通じて―

厳 廷美(東京大大学院)

従来の欧米中心のフェミニズム言語学の中で「女性が男性より丁寧な言葉遣いをする」という仮説はあらゆる文化においてユニバーサルであると考えられてきた.本研究は非西欧圈で,しかも非常に文化的にも類似点の多いと言われている日本と韓国の大学生の依頼談話における丁寧度の男女差を社会言語学観点から実証的に比較検討することによってこの仮説の検証を試みるものである.従来のように,個別的言語要素に注目する分析方法では異文化間における性差特徴を包括的に把握するには不十分であるので,語,文,談話という統合的なアプローチによる分析を行う.このような総合的な分析の結果,「言語行動において女性が男性より丁寧である」という仮説は日本では検証できたが,韓国では検証できなっかった.さらに,男女のある特定の言語行動はコンテクスト,特にカルチュラル・コンテクストによって異なることが明らかになり,従来のフェミニズム言語学で言われているように,女性の社会的権力のなさと丁寧な言語行動には直接に結び付かないことが分かった.