チュクチ語の出名動詞を派生する接辞について
―対応する自立動詞との比較をつうじて―

呉人 徳司(京都大大学院)

チュクチ語では,目的語と他動詞にあたる関係が通常,自立動詞による名詞抱合と対応する分析的表現により表される.両者はこのように意味的,統語的のみならず,「一般的」「恒久的」:「特殊的」「一時的」という談話機能的差異を表す点でも相関関係にある.一方これとは別に,同様の関係は名詞語幹に具体的動詞概念を表す接辞を付けた出名動詞によって表されることもある.その際には,意味的に対応する自立動詞による名詞抱合は起こらず,出名動詞が名詞抱合と同様の談話機能を表し分析的表現と相関する.これは,出名動詞と名詞抱合の間に認められる意味的,統語的(統辞的),機能的類似性により,両者の余剰的な出現が回避されているためであると考えられる.