夏藏対音資料による西夏語の声調の考察

荒川 慎太郎(京都大大学院)

西夏語文献には,夏藏対音資料ともいえる,チベット文字による振り仮名が付された経典が存在する.発表者は,サンクトペテルブルグ所蔵夏藏対音資料を調査し,これを利用して西夏語の声調を考察した.西夏語は平声・上声という声調をもっていたが,その発音法・調値に関して西夏人自身の具体的な記述はこれまで発見されていない.

本研究では,西夏語の平声・上声の音節に属する文字がチベット文字でどのように転写されているかを調査した.その結果,西夏語の平声音節はチベット文字転写の際に C1- が付加され,上声音節は C1- が付加されないという分布がほぼ確認できた.つまり,西夏語の平声音節はチベット語では高声調で,上声音節は低声調で表されているということになる.さらに,西夏文字の平・上という表記から,平声は高声調で始まりそのまま平板な型の高平調,上声は低声調で始まりその後上昇する低昇調である,と本発表では結論づけた.