日本語の談話における照応
―ゼロ代名詞の生起と文の結束要因―

早川 幸子(金沢大大学院)

本発表では,談語中である指示対象に引き続き言及する時,ゼロ代名詞での指示が可能になる条件について考察した.先行詞を含む文と照応形を含む文の意味関係,意味関係の結束性の有無,意味関係の成立に関わる要素について分析した結果,次のことがわかった.(1) 2文の結束性を生じる要因は2文の意味関係で,意味関係に結束性があるときゼロ代名詞での指示が可能になる.結束性がある意味関係には形態的要素を要しない詳述,判断,並列と,形態的要素を要する継起,展開がある.(2) 結束性のない意味関係は背景,展開であるが,文末表現によって結束性が生じることがある.(3) 照応形を含む文が先行詞のみに結束性を持つ場合がある.(4) 視点も結束性の要因の一つである.さらに,文の結束性には談話の内部の文の連接構造も関係している.こうして結束性を持つ文の連続が一つの領域を成し,ゼロ代名詞の生起が可能になることは,複文の一種の拡張とも考えられる.