日本言語学会第146回大会

プログラム


-大会プログラム(PDF版)
-口頭発表・ポスター発表要旨
-日本言語学会第146回大会ポスター(PDF版)

期日:2013年6月15日(土)・16日(日)
会場:茨城大学(水戸キャンパス:水戸市文京)
共催:茨城大学
会長:梶茂樹
大会運営委員長:藤代節
大会実行委員長:岡崎正男

大会中、保育室を設置する予定です(詳細はこちらから)。


大会1日目 6月15日(土)


13:00-18:00 口頭発表
18:15-20:00 懇親会

大会2日目 6月16日(日)


10:00-12:00 ワークショップ
11:00-12:50 ポスター発表
13:00-13:40 会長挨拶・会場校挨拶・会員総会・学会賞授与式
13:40-16:20 公開シンポジウム

公開シンポジウム

『アジアとアフリカの言語地域』


司会 西山 國雄
コメンテーター ジョン ホイットマン(国立国語研究所)

導入

近年言語変化の研究が盛んになってきている。形式言語学ではこれまで共時文法で提案された原理がいかに通時変化にも適用できるか、という視点で研究がなされ、また記述言語学では関連する言語や方言の多様性がいかにして出来たか、という問題意識がある。これらに共通するのは、1つの祖語からいくつかの言語に分かれていったという「系統発達」だが、これだけでは説明できない現象も多く、ここで重要になってくるのは「言語接触」の視点である。系統発達と言語接触の2つの要因が絡み合って、共通の特徴を持つ複数の言語が存在する地域を「言語地域」と呼ぶが、本シンポジウムではアジアとアフリカにおける4つの地域の言語事情を扱い、言語地域という概念がいかにして文法的特徴や多様性を説明する上で有効になるかを考えていく。

「類型なのか、言語地域なのか? ―日本語は北東アジアの言語なのか?―」

風間伸次郎(東京外国語大学)
(2つ以上の)言語が似ている場合、その理由は、(1) 系統関係による、(2) 接触による相互影響で生じた、(3) 類型的によくあるタイプである、の3つのいずれか(もしくはその組み合わせ)であると考えられる。①松本 (2007) は朝鮮語・日本語・アイヌ語・ニブフ語からなる環日本海諸語を設定し、その歴史的なつながりを示唆している。②Masica (1976) はインド言語領域にみられる諸特徴に注目し、これが日本語を含む(中央・北東)アジアの言語へと地域的に連続していることを示している。③河野 (1989)は日本語のような文法特徴を持つ言語を「アルタイ型」という類型に属するものと考えている。はたして日本語の示す諸特徴は、これをどの理由によるものとみなすべきであろうか? 本発表では、日本語及び日本語に類似した言語が示す一連の特徴について、それらが相互に内的関連性を持っているのか、そのような諸特徴を持つ言語は他の地域にも存在するのか、といった観点から上記の3つの説についての検討を行う。

「動詞中置はクレオール化に於ける必然なのか? ―言語地域としての大陸東南アジア―」

藤井文男(茨城大学)
言語接触を通じた「クレオール化」で生成される二次言語は、一次言語の如何によらずSVOとなるという認識は幾度となく示されてきた。現実にはもちろん、これに反する事例も度々、報告されるが、系統発達に関し、例外なしとはしないながらも、特定言語が「主語」「目的語」といった文要素を表示する接辞等を欠くに至ると、当該言語はその出発点の如何に拘らず「動詞中置」へと移行するのが一般的とする認識とのパラレルは、それなりの支持を持って受け入れられている。その意味で、ビルマ語に近いとされながらも類型的には動詞の中置性が顕著なカレン語の位置付けには極めて暗示的なものがある。この言語もビルマ語群の諸言語に比べれば孤立語性がいっそう高いからだ。カレン語は、SOVを基本とするチベット・ビルマ語系の言語が言語接触を通じ、接辞等によるCase Markingを脱落させる過程で動詞中置を導入したのだろうか?本発表では、地域的特性として「動詞中置」を基本とする大陸東南アジア諸語の類型論的位置付けについて、“横軸”と“縦軸”の連関から概観する。

「内的要因か、外的要因か、両方か?―東インドネシア言語の一致形態素の発達―」

西山國雄(茨城大学)
東インドネシアの言語は一致(agreement)が豊かだが、これが発達した要因としては系統発達(内的要因)と言語接触(外的要因)の2つの可能性がある。接辞から一致形態素の発達は通言語的に観察されるが、東インドネシアの言語では接辞と一致形態素の両方が観察される。そして接辞を持つ言語はオーストロネシア語族の中でも保守的なグループに下位分類され、一方一致形態素を持つ言語は革新的グループとされる。これは1つの語族内での発達を示唆する。しかし言語接触による可能性も否定できない。一致形態素を持つオーストロネシア言語は、一致形態素が豊かなパプア言語と地理的に近い。また上記のオーストロネシア語族の下位分類に対し、最近代案が提唱されており、ここでは接辞を持つ言語と一致形態素を持つ言語で明確なグループの分化はない。これらのことから、一致形態素の発達は言語接触という外的要因が、系統発達という内的要因を触発したと考えられる。

「アフリカの言語地域と言語地域としてのアフリカ」

河内一博(防衛大学校)
本発表は、アフリカの言語地域と言語地域としてのアフリカに関する研究を概観し、これまで明らかになっていると言える点と、これらの研究の限界および問題点を指摘する。

 まず最初に、アフリカの言語の系統分類とアフリカの言語地域が研究されてきた背景について説明し、アフリカの言語に見られると言われている特徴とアフリカの言語には見られないと言われている特徴を挙げる。次に、一つまたは複数の文法的特徴をもとになされているアフリカのいくつかの言語地域の記述と、アフリカ大陸全体が言語地域であるという考えについて話す。確かにアフリカの言語の場合、言語地域は、系統分類では説明できない言語間の類似性の解明の手がかりとなりそうである。特に言語地域の言語が一つの特徴を共有する場合、言語接触による説明は有効であるように思われる。ところが、言語地域を多くの特徴によって規定しようとすればするほど、それらの特徴の関係が不明瞭になったり数値化という方法にも疑問点があったりするため、説得力に欠ける。また、記述が十分になされていない言語のデータをもとにしているという問題や、個々の言語の接触の事例からより大きな言語地域を発見するというのではなく大きな言語地域を定めて言語の接触を推測する傾向があるという問題などもある。このようなこれまでの研究の問題点を指摘し、最後に、今までに取られなかった視点について述べる。