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固有名の意味論

上林 洋二

固有名がいかなる意味をもつかという論争は哲学史上に長い歴史を持っているが,大きくわけて二つの有力な説―記述説と因果説がある。前者は,固有名は非常に豊富な意味を持つという主張をし,後者は,固有名は全く意味を持たないという主張をしている。 Katz は,この二つを止揚し,言語学理論に基いて,固有名の意味と指示の問題に一つの解答を示した。本研究では,この Katz の主張のうちの一つである,固有名が (bears N) という意味を有するという議論に,言語学的観点から一つの証拠を与える。
上林 (1984) で述べたように,日本語のコピュラ文には,次の三つの型がある。
(1) AハBダ[指定文]
「A」という表現で指示される指示対象についていえば,それは“B”という性質を持つ。
(2) AガBダ[指定文]
「B」という表現で指示される指示対象,あるいは“B”という性質を持つものをさがせば,それは「A」という表現の指示対象である。
(3) BハAダ[倒置指定文]
((2) と同じ)
「私のピアノの先生は山田さんです」という文は,「私のピアノの先生という性質を持っているのはどの人かというと,この山田さんです」という意味では「山田さんが私のピアノの先生ですj という文に言いかえ可能なのに対し,「私のピアノの先生であるあの人は,山田さんという名前です」という意味では,言いかえ不可能である。つまり,後者に解釈した場合,指定文であり,固有名「山田さん」は叙述名詞句としてあらわれ,“山田さんという性質”は“「山田さん」という名を持っている”と解される。従って,「山田さん」は“「山田さん」という名の持ち主”という意味を有すると考えるのが妥当である。

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