東京方言の複合語アクセント記述の体系

岡田 英俊

日本語のアクセントについては,近年,生成音韻論による研究が活発化しつつあり,音調の記述において,ある程度の成果を挙げている。しかし,複合語のアクセントの記述は,必ずしも十分なものではない。
このような現状に鑑み,本発表では,生成音韻論の枠組みに基づいて,東京方言の複合語アクセントを統一的に記述するための,新しい体系を提示する。
体系の概略は,次のとおりである。
(1) 基底表示において,アクセントに関する情報を,素性の形で与えておく。この素性を,「アクセント素性」と称する。
(2) 複合語のアクセントは,その構成要素のアクセント素性から,「複合語アクセント規則」によって,導き出す。
(3) 複合語アクセント規則の適用される単位を,「アクセント統合単位」と名付ける。
(a) 狭義の複合語 (b) 派生語 (c) 用言の活用形 (d) 語に助詞・助動詞・接辞等が接続したもの
なお,ここで言う「複合語」は,次のようなものの総称である。
本発表で示した体系を用いることにより,(a) ~ (d) の種類に関係なく,統一的に,複合語のアクセントを記述することができる。
また,本体系においては,複合語アクセントの記述に際して,
(1) 基底表示において指定しておく必要のある,個別の情報
(2) 規則によって表現される,一般的な性質
の2つを,明確に分離して捉えることができる。