モーラと音節

平河内 健治

モーラと音節が日本語のアクセント現象を記述するのに重要な役割をはたすことはすでによく知られていることである。cf. McCawley (1968),Okuda (1975),Haraguchi (1977),Higurashi (1983) etc.
しかし,これら二つの単位は上記のような超分節音現象ばかりでなく,分節音が関与する音位転換においてもそれぞれ独自の働きをする。先ず,音節を単位とする同一形式素内の音位転換は次のような特性をもつ。
(1) a. オンセット及び音節全体の転位は近接音節をその領域とする。
b. ピークのみの転位はその音節のオンセットの素性が同一である。
c. コーダは不変である。
次に,モーラを単位とする転位は音節を単位とするものと次の点で異なっている。
(2) モーラを単位とする転位はその内部構造に言及しない。
言語理論上は,モーラと音節が共に timing plane に所属し,それぞれが tier をなし,core skelton に結びつくと考える非線状的音韻論の立場からそれぞれの働きを表示することができる。音節構造は Ito (1986) の次のような音節の型とコーダのフィルターによって適格性が与えられる。
(3) a. [CVVC]
b. *C]σ
  |
[-nasal]
モーラ構造は次のような余剰規則で示すことになろう。

モーラは音節 (σ) の領域内で決定されることがこれによって示される。
同じ超分節音現象と分節音現象にモーラと音節が共に関与することはそれぞれの tier が同じ plane に所属することで示され,相互関係を示す (4) が韻律論の Prosodic Licensing locality の条件に合致する。妥当な定式化といえる。