チャガ語マチャメ方言の動詞アクセントについて

湯川 恭敏

チャガ語は,タンザニア北部のキリマンジャロ山麓に話されるバントゥ系の言語であるが,周辺の他のバントゥ諸語とはかなり異なる言語であるのみならず,チャガ語内部においても方言が異なれば相互理解が不可能な場合も多いといわれる。
マチャメ方言 (Kimashamî)の動詞は,他のバントゥ諸語同様,アクセントの面で2つの型に分類され,その差異は不定形(i+語幹+a)においても明瞭に認められる。 inâ 「飲む」,ikabâ 「なぐる」,iruúya 「さがす」,ilelémba 「なだめる」etc. 対 iwa 「倒れる」,ighinga 「見守る」 etc. の如くである。
直説法各活用形は,概ね,主格接辞+時称接辞+(対格接辞+)語幹+語尾といった構造を有するが,肯定形ではその前に N (子音前鼻音)の立つものと立たないものの区別が多くの場合にあり,否定形は N の立つものに文末に立つ fo をつけたものである。これらは互いにアクセントが異なることが多い。また,構造を等しくする2つの活用形がアクセントのちがいのみで区別されることもある。
しかし,もっと興味深いのは,多くの直説法形において,うしろに何もつづかないか低くて平らなアクセントの名詞が目的語としてつづく場合と,どこかに高いところのある名詞がつづく場合とで,動詞活用形のほうのアクセントが異なることが多いという現象である。
nshílekulelémbya ndu.
 「私はあなたのために人をなだめた」
nshílekúlélémbya moonâ.
 「私はあなたのために子供をなだめた」
mbálélélémba ndu.
 「彼(女)らは人をなだめた」
mbálelélémba moonâ.
 「彼(女)らは子供をなだめた」 こうした現象は,後続する○○○○目的語名詞のアクセントのが,動詞活用形のアクセント変異をおこす要因として機能しうるということを示している。